アートフロントギャラリースコット=ド・ワシュレー氏は、初の個展となる今回の展覧会を、自分のものとして認識できません。氏は、 25 歳で交通事故に遭って以来、頭部の外傷がもとで脳に障害を負い、記憶が一日以上持続しなくなったからです。
今回の展覧会において「作品」とよばれるものは、氏自らの記憶障害を補完するためにあくまで個人的な営みの一環として生み出された装置にすぎません。自らの記憶を翌日まで留めるため、彼は元エンジニアとしての技術力を生かし多くの装置を開発してきました。つまり、彼の装置はあくまで自身の個人的事情によるものであり、他者に見せることを前提としてはいないものです。また、彼自身の記憶が一日しかもたないことにより、それらの装置は彼のさまざまの努力にも関わらず作り出されるのとほぼ同時に―次の日には―忘れられてしまいます。いわば「無用の」機械であり、完成しないまま一日たてば放置される運命にあるそれらの装置は、日毎の記録とともに氏の実姉が保管にあたっています。氏の生み出す装置は、彼に固有の特殊な状況のもとで制作されたものでありながら奇妙なユーモアを湛えており、われわれ誰にとっても自然である「忘却」という現象を改めて思い起こさせる点において興味深いものです。
最も身近な理解者であるド・ワシュレー氏の実姉シュテネー女史の協力により 実現の運びとなった 今回の展覧会では、来日に際してつくられたその数々の記憶装置を展示するとともに、彼の制作風景を追ったドキュメンタリー映像を上映します。
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