東京オペラシティ アートギャラリーいうまでもなく、長い美術の歴史においてはさまざまな自画像が描かれてきました。三浦篤編『自画像の美術史』(東京大学出版会、2003年)は、自画像と称される画家の自己表象がいかに特殊で重要な問題をはらむジャンルであることを概説しています。自画像の形式的分類からすれば、名知聡子の自画像は自己省察という範疇に属するでしょう。もっとも、それは、ブログのような、たんなる日常生活の絵日記的な描写にとどまるものではありません。文学でたとえるならば、名知の絵画は私小説とか心境小説と呼ばれるものよりも、教養小説(ビルドゥングスロマン)と呼ばれるものにむしろ近いかもしれません。自分自身をみつめる眼差しという点ではカーロの絵と共通しますが、そのときどきの赤裸々な心情の吐露ではなく、彼女にとって重要なある異性をいわば時空的な座標軸にした、自己確(アイデンティティ)という性格を強く帯びているようです。いい換えれば、自己をいかに客観的に捉えるかではなく、自己をみつめる眼差しそのものをいかに客観化できるかが重要なのです。卑近な日常に題材をもとめる作家が多い現代において、自己の姿を真正面から描き出す名知聡子のような作家は、少なくとも日本においては稀有であり、貴重な存在といえるでしょう。
[画像: 展示風景]
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