1999年にギャラリー小柳で発表した「Emotional Imprintings」においても、そして2002年に写真集としてまとめられた「The Sign of Life」以降も、清野賀子は、一貫して独特の距離感をもって匿名の風景や物事に目を向けてきました。存在理由の説明もなしに、ただ周囲の環境と光りに共鳴しながら立ち上がる樹木や建物、見慣れたありふれたものでありながら、慎重に枠組みをずらして差し出される被写体たち、手短に要約されることを拒否し続けてきたかに見える提示の仕方―こうした清野らしい感性による淡々としたスタンスは、今回発表される「A Good Day, Good Time」においてもなんら変わることはありません。
写真家としての最初期から、清野賀子は情緒に訴えることや、読み取りやすい物語を作品に持ち込む事を注意深く避けながら、手探りのままに自らの表現を模索し続けてきました。
そして13年余の写真とのかかわりを経て、ようやく探し求めていた表現を無理なく可能にする「文体」を獲得したようにみえます。そのことによって、今回の作品群には、美的洗練に表現の力強さが加わり、作家の新たな地平線を開くものとなっています。