アート・&・リバー・バンク松井宏太郎(まつい・こうたろう)の展覧会、"anon. diary"(名のない日記)は、写真、ドローイングを中心として、オブジェなども交えて構成されるインスタレーションです。一見すると何も描かれていないかのようなドローイングは、目を凝らしてみると、びっしりと細かいテクスチャが描きこまれています。会場に足を踏み入れた人々は、はかなげで、透明な印象のイメージをたどるうちに、独特な松井の世界に引き込まれていくことになるはずです。
松井は、イメージが伝達するものに対して、ささやかな、けれども切実な疑問を投げかけます。忠実に再現されたドキュメンタリーや、特定の意図を持って制作された物語が、実際にその現場を体験した人間のわずかな言葉に負けるのはなぜなのか。ひょっとすると、確かなイメージを目の前にしたとき、わたしたちはその事態と正面から接し、深くそれを呼吸するということを放棄しつつあるのかもしれません。確かなイメージがあることだけで充足し、もうそれ以上進む必要もないだろうという、奇妙で根拠のない安堵感。松井がたどたどしい手つきで構成する作品の背後で、彼の作品の表面的な見映えとは対照的な、骨太な問いが立ち上がってきます。わたしたちは、イメージの深奥に埋もれている現実のかけらを注意深く凝視めるひつようがあるのかもしれません。
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