宇都宮美術館杉浦非水(1876-1965)は明治・大正・昭和にかけて目覚しい活躍をみせた図案家です。故郷の愛媛県松山市で日本画を学んでいましたが、上京後洋画家黒田清輝が将来したアール・ヌーヴォー様式の図案に魅せられて以降、本格的に図案家の道を志します。三越呉服店時代の一連の仕事やポスター《東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通》は、日本の近代デザイン史上の傑作として位置づけられています。
本展覧会ではとくに非水の創作の根本にある透徹した写生精神に注目します。駆け出しの頃から晩年に至るまで生涯にわたって自然の草花や動物をモチーフとした生命力溢れる図案を多数制作しました。近年再評価の声が高まりつつある木版画集『非水百花譜』などはその代表的な作例といえるでしょう。非水にとっての“写生”とは、単に対象物をあるがままに描くということ以上の意味を持っていました。それは、徹底した観察によってのみ眼前に立ち表れてくるモチーフの無限の表情をいかに実直に把握しえるのか、さらにその上で万物の生命感をいかに自らの図案作品として昇華しえるのか、というデザインに限らず同時代のあらゆる領域の創作一般が抱える根源的な問題意識を有するものであり、だからこそ非水の図案の魅力が長い年月を経った今でも色褪せることなく多くの人々に愛されているのではないでしょうか。
本展覧会では上記の代表作はもちろんのこと、例えば東京美術学校から中央新聞社時代までの初期作品群あるいはヨーロッパ遊学時代(1922〜24年)のスケッチや写真などこれまでほとんど紹介されなかった貴重な作品資料を可能な限り展示することによって、非水のデザイン活動の全体像とその変遷を詳細に跡づけることを目指しています。さらに、創作のインスピレーションであり、且つ図案家としての“眼と手”の修養に少なからぬ影響を与えた世界各国の工芸品や海外のポスターを中心とした非水旧蔵コレクションの一部を展観することによって、非水デザインの位相を多角的に検証していきます。
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