伊藤純代は、在学時からぬいぐるみや人形、 ドールハウスといった子どもが扱う玩具を素材として制作してきました。 2009年1月の武蔵野美術大学大学院修了制作展で発表された、リカちゃん人形を型取りした発泡ウレタンとスタイロフォームによってつくられた巨大なドールハウス、《doll house #1》が与えた鮮烈な印象は、記憶にも新しいことでしょう。そのような幼少期における「切る」、「裂く」という行為によって引き起こされる快楽と恐怖の記憶は、今なお伊藤にとって切実な問題であると同時に、誰にも打ち明けられず自身の内に隠さざるをえなかった秘密でした。この両義的な感覚を通じて成立する立体作品は、どこか鑑賞者にカワイイ印象を与えながら、一方で子どもの無邪気な感性だけがもちえるおぞましさをも感じさせずにはいられません。本展においても試みられる、既製品を用いた解体と再構築による行為とは、より親密な対象だからこそ向けられる愛情と憎悪であり、解体されてしまった彫刻を縫合する一つの可能性を示しているといえるでしょう。