YOKOI FINE ARTトリッキーな構図と遊び心で、だまし絵的な世界を構築する野依幸治。油絵の具に砂を混ぜた独特のタッチとマチエールで描く「ここではない」その場所は淡い空気に包まれています。今展で野依が描くのは「時間」。一見時が止まっているかのような静寂に包まれた世界には、作家の特別な時間がゆっくりと流れているのです。
海岸沿いを走る電車。曇り空の下、島を離れどこかへ飛び立った飛行機。並走する船。誰かに会いにいくのか、それとも遠い町への旅の途中なのか。どこかに乗っているであろう乗客に想いを馳せながらその静かな時の流れに身を任せます。野依の描く世界では、その影や光、直接描かれていないモチーフが雄弁にその情景を物語ります。窓の影が映りこんだ食卓からは昼下がりの暖かい日差しが感じられ揺れるカーテンは夏の気持ちの良い風が吹き込んでいる事を教えてくれているようです。まるで日時計を見るように、葉の色の変化に気付く様に穏やかな季節の息吹をそこに見て取ることができます。
また今展で野依は新しい支持体の形に挑戦しています。丸、正方形、変形長方形…その形を意識してモチーフが配置された画面はより洗練された構図を生んでいます。丸いキャンバスに描かれた丸い時計。四角いキャンバスに描かれた四角いプール。まるで合わせ鏡の様に反響する世界は作品のもつイリュージョナルな性格
そのものだと言えるでしょう。窓の向こう、部屋の壁にかかっている時計。この針が指し示すのは作家が生まれた時間です。これから何かが始まろうとしています。新作約20点を発表する今展。特別な時間の流れが、そこから感じ取れるはず。この機会に是非ご高覧ください。
[画像: 野依幸治「八月の南風」(2010)キャンバスに油彩、砂、直径41cm]
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