poster for 河井美咲 展

このイベントは終了しました。

非凡なアーティストは、すぐれた審美眼を持っているものです。その才能は、たんに作品制作に発揮されるだけでなく、ときに若いアーティストを発掘することもあります。ニューヨークに着いたばかりの頃、友人もいなかった河井美咲は、しばらくユースホステルに泊まり、路上でスケッチブックに描いたドローイングを売っていました。とはいえ、興味を示してくれる通行人はほとんど皆無でした。ところが、ある日一人の女性が河井のドローイングを束で買い上げました。それが彫刻家のキキ・スミスだったそうです。河井の絵の魅力は、ほどなく他のアーティストやアートディーラーの間に広まり、2002年にはケニー・シャクター・コンテンポラリーで個展が開催されるに至り、『ニューヨーク・タイムズ』紙上で美術評論家ロベルタ・スミスに高く評価されます。さらに、翌2003年にはP. S. 1現代美術センター(現P. S.1 MoMA)で個展が開催されたのです。

河井美咲の作品は、絵画であれ立体であれ、一目でそれとわかる強い個性を持っています。蛍光色のどぎつい絵具の配色、ときに段ボールや布を貼った粗末な表層感。とくに絵画作品についていえば、メインとなるモティーフが画面中央に大きく描かれていることが少なくありません。メインとなるのは人物のほか動物の場合もありますが、その色彩感覚もきわめて特異なものです。描かれた人物はモスグリーンやブルーなど、現実にはありえない肌の色をしています。また、もう一つの特徴としては、登場人物の多くが、たとえばスキーやそりなどのウィンタースポーツ、サーフィンやシュノーケリングなどのマリンスポーツ、あるいはスケートボードや狩りなどに興じていることでしょう。スポーツと呼ぶよりも、むしろ単純に“遊び”と呼んだ方がよいかもしれません。これらの特徴が、彼女の作品に児童画にきわめて類似した印象をもたらしているのです。

河井の作品について語る際、必ずといってよいほど、「へたうま」という言葉が使われます。実際、彼女自身が、あるインタビューのなかで自作について「へたうま&コメディ」と言っています。その際、「へたうま」を英語で「good sense, bad technique(すばらしいセンスと下手な技術)」といい換えているのが面白いところです。

かつて1970年代終わりから80年代にかけてのニューヨークのアートシーンにおいて“バッド・ペインティング“と呼ばれた一群の絵画作品がありました。一般的にはニュー・イメージ・ペインティングと呼ばれるもので、一言でいえば、技術的な稚拙さを最大の特徴としていました。“ハイ・アート”と“ロー・アート”の相克は、いつの時代にも存在するものなのでしょう。河井美咲の作品は、こうしたニューヨークにおける美術の歴史的な流れのなかに位置づけることができます。けれども、決して過去の美術動向のたんなる焼き直し(リバイバル)でないことも確かです。

たとえば、立体インスタレーションには幼い頃に母親が作ってくれた人形の記憶や、東南アジアで彼女がみた民芸品などの影響が混在しています。ニューヨークにたどり着く前、京都芸術短期大学(現京都造形芸術大学)を卒業した河井は、トルコ、ネパール、タイなどを旅行して歩いたといいます。こうしたアジア体験をへて渡米したことが、彼女のなかで“日本”というものを相対化する重要な契機になったのではないでしょうか。作品の背景に、たとえ日本のコメディやマンガ、アニメなどのサブカルチャーの影響があるとしても、それが直接的に表面に現れないのはそのためでしょう。河井美咲の天真爛漫ともいえる表現には、フォーマリズムの残滓も古典絵画の引用もまったくみられません。表現という行為に対するそのきわめて純粋な渇望こそが、河井美咲の作品の存在感を際立たせているに間違いありません。

[画像:「Goal Keeper」2010 アクリル絵具、キャンバス、130.3 x 194.0cm]

メディア

スケジュール

2010年10月23日 ~ 2010年12月26日

アーティスト

河井美咲

Facebook

Reviews

hypo: (2011-01-26)

いわゆる「ヘタウマ」で有名な若手作家の河井美咲の個展。

キャンバスや布などのコラージュの上に、カラフルなヘタウマ画。
個人的には好きになれないものの、こういった流れが出来ていること自体が自由で面白い。
彼女自身の言う「good sense, bad technique」が全てを表している。

http://hypo-me.blogspot.com/2011/01/blog-post_272.html

All content on this site is © their respective owner(s).
Tokyo Art Beat (2004 - 2017) - About - Contact - Privacy - Terms of Use