「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.9 小林正人+杉戸洋」 展

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最後にごくあたりまえの事実として
保坂健二朗

夏合宿(広島での海水浴と草刈り)があり、秋合宿(長野での美術鑑賞と温泉)があって、そして「大会」があった。大会で行われた競技は、卓球。といっても普通の卓球ではなくて、ペアを組み(もちろん男女だ)、いかにラリーを続けられるかを競うもの。つまり求められていたのは、相手を思いやる精神。あるいは相手を知ろうとする気持ち、すなわちLOVEだった。壁には、「継続は力なり LOVE ALL」と書かれた垂れ幕が掛かっていた。
そして制作が行われた。小林のアトリエで。杉戸のアトリエで。そして芸大の取手校舎にある小林のアトリエで。私が見ることのできた、杉戸のアトリエでの「光景」を描写してみると次のようになる。壁にはいくつかの絵がかかっている。そのほとんどは、杉戸がかつて描き始めてそのままにしていたものだ。そこに、その上に、小林が手を加えていく。いや、絵具を加えていくと言ったほうがより適切かもしれない。ある時は筆を使い、ある時はチューブそのものを使い、またある時は手を使いながら、小林は「変えて」いく。杉戸は、様々なことをしている。たとえば、小林が取り組んでいるその絵の、隣にある絵をおもむろに掛け替えたりする。それは三つくらい先にあった絵だったり、あるいは、杉戸がつくった、「小林+杉戸」的な「絵画」だったりする(ちょっと歪んだ木枠に、三角形に切った銀色のシートがはられたもの)。とにかく、そうすることで「空気」が微妙に変わる。そして小林は描き続け、もちろん杉戸も、別の作品に(たとえばすでに小林が手を入れた作品に)手を入れる。言葉が交わされることはない。聞こえてくるのはBGMで流されている音楽だけだ。すべてが当然そうであるかのようにそこにあり、しかし少しずつ、時には劇的に変わっていく。
今回展示されている作品は、そうしたプロセスを経た「絵画」である。つまり、ふたりが、ふたりで描いた絵画である。いや、「プロセスを経た」というのはどこか正しくない。というのも、そうしたプロセスも含めて絵画と呼びたい気持ちが、少なくとも今の私にはあるからだ。この一年間の展覧会を通しておぼろげながらわかったことがある。多くの人たちが、なぜ見る側つくる側の違いなく絵画に惹かれるのか。レオナルド・ダ・ヴィンチのような科学的知識も持つ天才がなぜ「絵画」ごときに関心を持つことになったのか。それはやはり、この荒唐無稽な存在が、愛によって支えられているからではないか。愛なくして生まれえず、愛なくしてその存在を承認されない。それが、絵画だ。
この認識には、一定の注意が必要である。ひとつは、いかなる芸術作品も、それが生まれた瞬間には「荒唐無稽」であるからだ。しかし、既存の物質(絵具とキャンバス)から光をつくろうなんて思いつくその一点において、あるいは、単なる平面の人工物の中にさまざまな質を成立させようとするその一点において、絵画の荒唐無稽さは際立っている。
そしてもうひとつ。そうしたどこまでも荒唐無稽な存在を承認する愛は、絵画に直接向けられるべきではなくて、むしろそれ以外の場所に(あるいはそれを疎外しているところのものに)向けられるべきだからだ。ハンナ・アレントが『アウグスティヌスの愛の概念』で言っているように。「「製作」は、人間をいまだに本質的に「製作したもの」の外部にとどめておくのみである。むしろ世界の疎遠性を取り除き、人間を世界に帰属する者となすのは、「世界への愛」(dilectio mundi)である。この「世界への愛」において、明らかに人間は、世界を自らの「住まい/故郷」(Heimat)となし、自らの「善きもの」と「悪しきもの」の追求を、世界だけに求めるようになる。」(千葉眞訳、みすず書房)。創造者たりえない人間は、むしろなにかをつくることで、世界から遠ざかっていってしまう。つくるものが、荒唐無稽であれば尚更そうだ。その時、試されているのは、いかに「世界への愛」を持ち得ているかとなる。この事実を、少なくとも画家と呼ばれる人達は、あるいは、小林正人と杉戸洋は、よくわかっている。

[関連イベント]
「アーティストトーク」 
日時: 2月9日(土)17時~18時

[画像: 小林正人、杉戸洋 「love all」(2012)]

メディア

スケジュール

2013年02月09日 ~ 2013年03月23日

オープニングパーティー 2013年02月09日18:00 から 19:00 まで

アーティスト

小林正人杉戸洋

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