田名網敬一は、1936年東京生まれ。武蔵野美術大学デザイン科卒。1960年代からメディアやジャンルの境界を横断して、アートディレクション、イラストレーションといったグラフィックデザインの枠に留まらず、アニメーション、実験映画そして絵画、彫刻作品まで幅広く手掛け、現代の可変的なアーティスト像の先駆者として世界中の若いアーティストたちに大きな影響を与えているアーティストです。60年代には、伝説的ロックバンド「モンキーズ」の『Pisces,Aquarius,Capricorn & Jones Ltd』 (1967)や、「ジェファーソン・エアプレイン」の『After Bathing At Baxters』(1967)の日本版アルバムジャケットを制作、また1968年にアメリカのAVANT-GARDE誌主催の「反戦ポスターコンテスト」 にて、シルクスクリーンプリント作品「NO MORE WAR」シリーズを発表するなど、ポップアート及びサイケデリックカルチャーの日本への導入に重要な作品を残しています。 また、田名網は、「卵形」(1963)、「田名網敬一の肖像」(1966)、「未来虚像図鑑」(1969)といった作品集の出版にも力を注ぎ、「アートブックの作品性」というテーマにも早くから取り組んできました。これらの作品は、田名網が、デザインのルールを応用したポップアートの可能性にいち早く着目し、遅くとも60年代の中頃から多色印刷やイメージのサンプリングなどといった技法や、「アートにおける複製」という概念を自身の作品で実験的に応用していたことを証明しています。
また、田名網は、同時期にアンディ・ウォーホルやジョナス・メカスの洗礼を受け、実験映像作品やアニメーションの制作にも力を注いでいます、それらの作品は、「ニューヨークフィルムフェスティバル」(1976)、「日本の実験映画特集」展(ニューヨーク近代美術館、1978)、「ロンドン国際前衛映画祭」(イギリス、1979,2003)、「Japanese Underground Cinema Program 6: Radical Experiments in Japanese Animation」(ニューヨーク近代美術館, 2013)など数多くの国際映画祭、映像作品展に招待出品され、また近年ベルリン国立美術館(Hamburger Bahnhof)に収蔵されるなど、高い評価を受けています。