リーは、布やダンボールに描いた絵画、ライトやタオルハンガーのような既製品と絵画を組み合わせた作品、映像と絵画を並べた作品など、日常の一部と見紛うさりげない作品を制作しています。淡いパステル調の色使いを特徴とするそれらは一見、日常性を礼賛しているようにみえます。しかしリーの問題意識は、身の回りの社会や政治状況にも及んでいます。学生だった2003年には、香港政府が新型肺炎SARS流行のために外出禁止令を出したことへのささやかな抵抗として、自らがチェック柄を描いた布を敷いて友達とピクニックを行いました。また自宅のテーブルの表面を指でひっかき続ける様子を映像や写真でとらえた「Scratching the table surface」(2006年-2011年)には無意味に思える行為を通じ、高度経済成長以降、効率のみを追求するようになった都市への静かな批判を込めています。
本展では「Scratching the table surface」を含むこれまでの代表作数点の他、新作として、テキストを施した布に描いた絵画、ダンボールに描いた絵画、ギャラリーの空間に合わせた映像作品など約10点が展示されます。リーの作品は声高にメッセージを放つことはなくとも、洗練されたウィットを含みます。高度経済成長を経た今、転換期に直面する日本人にとって、時代と向き合うための示唆に富む展示にぜひご期待ください。