本展では、大谷透、太中ゆうき、貴志真生也、関口正浩、中川トラヲ、和田真由子の6名の作家を、「風景」というキーワードから新たに読み解きます。ここでいう「風景」とは、いわゆる景色や景観を指す一般的な意義のみならず、作品制作の一態度を表す特殊な意味を含ませています。「『風景』の作家とそうでない作家がいる」、出展作家の一人である大谷透のこの発言に今回の展覧会は端を発します。大谷の言葉を要約すると、「風景」の作家とは「一個の作品で何かたくさんのことを言おうとしている、あるいは、結果的に言えてしまっている作家」のことであり、「風景」とは、山や川、空気や光、様々な要素が相互/複合的に関係しながら一つの景色を形作っているように、そこに何某かの複合的な現象が起こっている作品のことを表します。つまり、作品のプレゼンスとして、鑑賞者と制作者の見るものが同じである場合は「風景」とは分類されず、多面的な解釈や意義を含む作品を「風景」とみなす、ということになります。作品そのものよりもむしろ、各作家の制作のプロセスに関わる態度(アティテュード)に大きな違いがあるものと思われます。制作のプロセスにおいて、完成形があらかじめ見定められている場合や、その作品によって表現すべき事象が明瞭かつ端的に示される場合は、作品の容態がどうであれ、そこで表現されるべき事象はただ一つなのです。反面、今ここで「風景」として提示しようとしている作家においては、作品の容態がどうであれ、そこから我々が感受するべき事象は多岐にわたるのです。
"ignore your perspective” という大命題において、新たなる視野を開拓し、先鋭のさらなる先を見定めるべく「風景」つまり、作家の逡巡から立ち現れる現象に「空間」を与える本展。そこには計り知れないほどの再認識と再発見が潜んでいることでしょう。