楊博は1991年に中華人民共和国湖北省で生まれ、10代より日本に移り、現在東京在住のアーティストです。異郷で生きながら、若者としてポップカルチャーに憧れる際の、物理的距離による翻訳過程での違和感や、自らの立場の決定不可能性による無節操なジレンマなどをきっかけに、ペインティング作品を主に制作してきました。これまでにデビッド・ボウイやイギー・ポップなどの、70年代にシーンへ登場したミュージシャンたちのアイコン、言葉、エピソード、または名前そのものをモチーフとしてきました。本展示名の「Heart of Glass」もまた、アンディ・ウォーホルやデビッド・クローネンバークの作品にも登場した女性ボーカリスト、デボラ・ハリーが率いるニュー・ウェーブの代表的バンド、ブロンディのヒット曲タイトルから引用したものです。ニヒルで人を食ったような態度で、流行りのディスコやラップ等の要素を軽やかに作品に取り入れ、ポップチャートに食い込んでいくそのスタンスには、変化していく時代の波やメディアから逃避することなく、自ら積極的に呑み込まれていくという自覚的な卑屈さと、裏返しの反逆精神が現れています。そしてデボラ・ハリーはそのシンボルの役割を果たしています。本展示では、楊博が継続的に取り組んでいる「ポップの受容」というテーマの延長線上に、そのデボラ・ハリーの顔をモチーフとした新作ペインティングシリーズを含めた作品群を展示します。