目の前にあるもの、それが確かに視野に入っているからといって、私たちがそれを「見ている」とは限りません。日常の風景を形作る一つひとつものに、いったいどれだけの過去が蓄積され、人々の記憶が刻まれているか。ある意味ではそれが「見えない」ことによって私たちは平穏な日常を送っているとも言えるでしょう。Kazu ; M は、現在私たちが目にしている風景の中に何気なく佇んでいる過去の出来事の痕跡を、写真という方法によって私たちの意識の上に浮かび上がらせます。端正なカメラアングルの中に切り取られ、静寂とともに印画紙に刻まれるそれらの対象は、決して声高に私たちに訴えかけるわけではなく、ただそれが、そこに今もあることだけを私たちに伝えています。今回作者が訪れたのは瀬戸内海に浮かぶ小島「大久野島」通称"うさぎ島"です。