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[画像: 末松由華利《架空の値打ち》(10点組)より アクリル絵具,キャンバス 162.0×130.0 cm 2019]

「project N 76 末松由華利」展

東京オペラシティ アートギャラリー
終了しました

アーティスト

末松由華利
末松由華利は、アクリル絵具のにじみやぼかし、色彩の重なり合いの効果を極めて精妙に用いながら、抽象的な画面を生み出していきます。抽象とはいっても、しばしば水面や植物など自然を暗示するフォルムもみられ、観る者に漠とした空間の拡がりや、水の気配などを感じさせます。末松の関心はしかし、自然そのものにあるのではなく、たとえば自然に没入したり、そこに帰依したりするような感情とは無縁といってよいでしょう。じっさい末松は、自然とは、人間が生きていくための条件の一つにすぎないと述べています。末松の主たる関心は、自然よりも、われわれ人間が他者とつながりをもち、社会を構成して生きていくうえでの諸問題なのです。「私たちの生きるこの世と、この世に生きる私たちの、救い難い程の残酷さと優しさは、いつも私の興味の主軸である[*1]」と、作家は書いています。その抽象的な作風からすれば驚くべきことと言えますが、末松の制作ノートには、描きたいテーマや題材、それに相応しい言葉やタイトルが丹念に書き込まれ、つねに新しい制作のためにプールされています。そこでは、末松自身が生活のなかで出会ったさまざまな状況や体験、また日頃感じている疑問などに端を発した種々の事柄が、この世に生きる誰もが出会う人生の諸局面として一般化、普遍化されて言語化されているのです。いずれにせよ末松にとって、絵画制作とは、たんに形の面白さや色彩の効果、画面の強度などを追求するだけの行為ではありえません。なるほど従来、一般に抽象絵画、ことに純粋抽象といわれる制作領域は、かたちや色彩とその効果に関わる形式上の探求、達成を至上の課題とみなし、そこに優れた内容やテーマは必ずしも必要ではないという態度とむすびつきがちでした。けれども末松においては、まず表現したいこと、描きたいテーマが作品に先行して存在しています。まずタイトル、テーマがあり、それに導かれて、相応しいフォルムや色彩、画面の大きさやフォーマットが吟味、検討され、無数の下絵、習作を経て、完成作の構図や色彩が獲得されていくのです。だから末松においては、個々の作品とそのタイトル、テーマとの対応、結びつきは緊密かつ必然的であって、決して任意ではありません。とはいえ、それは末松だけの非常にパーソナルな、いわば内密の領域でのことでもあって、観る側にとっては、作品とタイトルとの照応関係は、必ずしもストンと納得できるとは言い切れません。しかしそもそも、末松自身は、一義的にテーマを提示するようなコミュニケーションははじめから想定していないのです。むしろ観る者が作品をめぐって考えたり、戸惑ったり、自問したりする体験においてこそ、末松の考えるコミュニケーションは完遂されるといいます。末松が想定するイメージと言葉(タイトル)によるコミュニケーションは、一方通行の伝達とは異なるのです。興味深いことに、末松は、あるテーマ、タイトルに相応しい形式を模索するプロセスにおいて、得られた表現があまりにタイトルと密着しすぎているように感じられたり、あるいは決まりすぎたような、あたかも断言するかのような表現と思われる場合は、いかにそれが画面としての強度を備えていようが、採用せず、没にするといいます。一義的なイメージは、かえってコミュニケーションを活性化させるはずの「動き」を止めてしまうからです。重要なのは、テーマの内容に応じて、いわばどこまで言って、どこを言わずに止めておくか、どう含みをもたせるか、なにを促すか、そのさじ加減の判断であり、つまり、我々が他者との日々のコミュニケーションにおいて行なっている判断と、それは変わりません。末松の制作行為は、豊かでクリエーティブなコミュニケーションを指向してやまないのです。末松の作品の連なり、タイトルも含めた連なりと向き合うとき、そこに感じられるのは、この作家特有の、すべてに対するある冷静な距離感ではないでしょうか。作家自身の生の体験に裏打ちされた切実さを底流としつつ、それをむしろ突き放すかのように冷静に観察し、一般化、普遍化し、さらに批評する、そうした高度な距離感が、末松の表現行為を貫いている軸として、否応なく感じられるのです。そのぶれることのない軸に導かれてこそ、私たちもまた、自らの思考と想像力、そして身体を含めた感覚の総体を活性化させながら、末松の投げかけに応答せずにはいられないのです。

スケジュール

2019年7月10日(水)〜2019年9月23日(月)

開館情報

時間
11:0019:00
休館日
月曜日
月曜日が祝日の場合は開館し翌火曜日休館
年末年始休館
入場料
展覧会URLhttp://www.operacity.jp/ag/exh225.php
会場東京オペラシティ アートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag/
住所〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2
アクセス京王新線初台駅東口より徒歩3分、小田急小田原線参宮橋駅より徒歩11分、都営大江戸線西新宿五丁目駅A2出口より徒歩12分
電話番号050-5541-8600 (ハローダイヤル)
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