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[画像: 守山友一朗《Crystals on a table》 油彩, キャンバス 112.0 × 144.5 cm 2020 photo: Kei Okano]

「project N 80 守山友一朗」

東京オペラシティ アートギャラリー
終了しました

アーティスト

守山友一朗
※東京オペラシティアートギャラリーは2020年11月4日[水]から、来館予約が不要となります。確実にご入館を希望される場合は、日時指定の来館予約をおすすめします。詳細は公式ホームページをご確認ください。
守山友一朗が描く絵はあまり油彩画らしくない。確かに油絵具をもちいているのだが、マットな質感は油彩画よりも、むしろ水彩画や日本画を思わせる。それはむろん、彼の独特な表現技法によるところが大きい。ごく薄く溶いた絵具をもちいて制作することで、彼の作品には油絵らしい光沢がほとんどみられないのだが、それだけではない。守山は異なる色彩のタッチを重ねることなく、作品を完成させる。爽やかな風にそよぐ新緑の枝葉にしても、南仏のまばゆい陽光にきらめく水面にしても、地面を覆い隠すほどに群生する草花にしても、ほとんど絵具が塗り重ねられていないことに気づく。一見何気ないその画面を仔細に眺めれば、たいていの場合、白く塗られたようにみえる箇所は、下地のホワイトが何ら色を加えられることなく、文字どおり無垢のまま露になっていることがわかる。絵具をほとんど塗り重ねずに複雑なイメージを表現する手法は禁欲的(ストイック)といってよいだろうが、この手法で、守山は100号大の作品をいとも容易く制作する。しかも、下地を施すのみで、下描きもほとんど描かないことを知れば、その制作は、禁欲的であると同時に、曲芸的(アクロバティック)といっても過言ではないかも知れない。

こうした独特な制作方法のほかにも、いくつか指摘しておくべき特徴がある。ひとつは構図だ。守山の作品は、屋外の風景を描くものと室内の情景を描くものに大別できるが、そのいずれの作品でも、やや上方から見下ろした構図が多い。ごくありふれた俯瞰構図といえばそれまでだが、自身が目にした光景をその場でスケッチしたかのような ─ というより、カメラで撮影したといった方が近いのだろう ─ ごく自然な視点は、作品全体の平明な印象ともあいまって、描かれたイメージをみる者にとっても親密で、どこか懐かしさすら感じさせることに寄与している。俯瞰構図は、守山の作品にいわば等身大の親しみやすさを与えているといえるだろう。
もうひとつは、明るく透明感のある色彩表現である。すでに述べたように、画面上でほとんど絵具を塗り重ねないというルールを自らに課すことで、画家は明澄な色彩を実現している。この禁欲的な制作方法はまた、視覚的にも特別な効果をもたらしている。通常は絵具の重なりが、個々のモティーフの前後の位置関係や遠近感にそのまま結びつき、画面に奥行きや空間性を感知させる。だが、そうした層(レイヤー)を欠き、色彩のうえではすべてが等距離に置かれた守山の作品では、奥行きや空間性の表出は、画面に描かれた個々のモティーフを知覚する鑑賞者の認識や想像に委ねられているといってよい。そういう点では、点描主義の画家たちが、パレットのうえで絵具を混ぜ合せることを避け、キャンバスにじかに置いて、鑑賞者の網膜上での混合を企図したことと相通じるものがある。

下描きのない画面のそこかしこに、守山は薄く溶いた絵具の色を少しずつ、丁寧に加えてゆき、こうして徐々にイメージが立ち現れてくる。はじめ茫洋としたイメージが次第に明瞭なものへと変化していくさまは、さながら暗室で現像液に浸けた印画紙にゆっくりとイメージが浮かび上がる過程を想起させる。実際、守山が描くのは、彼が訪れた先々で目にした光景だ。かつてみたその光景を、記憶をたどり、当時の新鮮な感動を呼び起こしながら、守山は画面に定着させている。
このように考えてみると、守山友一朗の制作の根底にあるものは、彼が世界に向き合う際の姿勢に違いない。守山は、14年にわたり滞在したフランスでの日常生活や、休暇で訪れたヨーロッパ各地で目にした光景を、研ぎ澄まされた鋭い感受性によって捉え、表現する。 人々が水遊びをするニースの海辺、初夏の木漏れ日、一輪挿しのバラ、宮殿の小部屋、端正で調和のとれた室内 ─ 守山の描き出すイメージは、けっして劇的なものでも、また、奇想天外なものでもない。すべては、彼が捉えた日常にさりげなく潜む美であり、守山はそれをキャンバスに表現する。不思議な温もりを湛える守山の作品が共感を呼ぶのは、それがたんなる再現描写にとどまらず、その折々に彼の心の琴線を揺り動かした新鮮な感動が、色褪せることなく画面に深く刻み込まれているからだろう。

スケジュール

2020年10月10日(土)〜2020年12月20日(日)

開館情報

時間
11:0019:00
休館日
月曜日
月曜日が祝日の場合は開館し翌火曜日休館
年末年始休館
備考
事前予約制(詳細は公式HPをご確認ください)
入場料一般 1200円、大学生・高校生 800円、中学生以下無料
展覧会URLhttps://www.operacity.jp/ag/exh235.php
会場東京オペラシティ アートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag/
住所〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2
アクセス京王新線初台駅東口より徒歩3分、小田急小田原線参宮橋駅より徒歩11分、都営大江戸線西新宿五丁目駅A2出口より徒歩12分
電話番号050-5541-8600 (ハローダイヤル)
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