本展は、ゲルハルト・リヒターやアンゼルム・キーファーなどとともに現代のドイツを代表する画家、ジグマー・ポルケの日本で初めての大規模な展覧会である。出品作品は数で言えば30点ほどであるが、およそ異なった雰囲気の作品が混在しているので、物足りないという印象はあまりなかった。私自身がその作品をまとまった数で見るのは初めての機会だったこともあり、大変新鮮に感じた。ポスターにも使われている「不思議の国のアリス」(1971)では、どぎつい色彩の巨大なプリント布地の上に、引用されたイメージが白い絵具で転写されていて、見る者の焦点を狂わせる。絵(といって良いかどうか)のどこに注目すればよいのかよくわからないのだが、かといって、一般的な抽象絵画のように画面全体を一挙に感じ取らせてもくれない。今回展示されていた多様な作品のうちに共通性があるとすれば、そのような曖昧さにおいてかもしれない。そして、それが妙に心地よいのだ。(政治的コンテクストを喚起させる作品が今回少なかったことも、その要因であろう。)
「魔方陣」と題されたシリーズでは、2メートル四方のキャンヴァスに文字通り魔方陣が描かれ、その数字が1から順に一番大きい数まで、一筆書きのようにして線で結ばれている。魔方陣の種類によって線のなす軌跡は当然変わるのだが、その軌跡には漠然と規則性のようなものがあって、世界の隠れた法則を示しているかのようでもある。しかし、この作品は同時に、そのような神秘性とは無縁の、純粋で明瞭な幾何学的抽象絵画としても見ることができる。つまり、注目の置き方によって、見え方や意味が大きく変わってしまう。
抽象表現主義のようで抽象表現主義ではない、ポップ・アートのようでポップ・アートではない、そんなオルタナティヴとしてのジグマー・ポルケの仕事は、絵画の可能性についての深い示唆を我々に与えている。


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