そしてだからこそ、1冊の本を手にする時に、それが「本」というかたちをしていることの意味、すなわち書かれている内容はもちろん、デザイン、質感、重量といった物質としての価値が重要になってきているように思える。
POLA Museum Annexで行われている本展は、本の装丁デザイナーの仕事に焦点を当てた展覧会だ。山室眞二、田中淑惠、大久保明子、幅雅臣、年代も性別も異なる4人の仕事が並ぶ様は圧巻である。
ただ完成した作品を並べただけではなく、例をとって吉本ばななの『イルカ』の装丁ができるまでの工程を展示してあるのも非常に良かった。同じデザインでもどんな紙に印刷をするのか、また印刷方法も箔押しの有無やその種類により全く印象が異なるのである。帯も重要だ。表紙と帯にまたがったデザインにもできるし、どういったかたちで文句を入れるのか。いくつもの試作品を見比べるのは楽しい。
私も仕事がら印刷には携わる機会がそれなりにあるけれども、やはり「本」というかたちにする作業には、それ自体にクリエイティブがあって、デザイナーの手腕がより大きく問われることがよくわかった。こういった展示は意外に見る機会が少ないので、興味のある方にはぜひ足を運んでいただきたいと思う。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto