束芋 展「ヨロヨロン」

タイトルがいい。世間一般の「世論」と、それに惑わされる束芋本人が自虐的に認識する「ヨロヨロ」とした意識をかけて「ヨロヨロン」。柔らかい色使いで描かれた風景の中に、現代社会が抱える闇をブラックに表現する彼女の作品にぴったりである。

poster for Tabaimo Exhibition

束芋 展「ヨロヨロン」

東京:その他エリアにある
原美術館(東京)にて
このイベントは終了しました。 - (2006-06-03 - 2006-08-27)

In レビュー by Makoto Hashimoto 2006-06-05

今回原美術館で開催されている束芋の個展では、新作の映像インスタレーション3点を中心に、有名な《にっぽんの台所》や様々な展覧会におけるインスタレーションの記録映像、アニメーションのための原画などが展示されている。私は勝手に「らしい」個展を期待していたのだが、第一展示室の新作インスタレーション《真夜中の海》でそれは早くも裏切られた。覗き穴から見えるのは、真っ暗な空間と白い描線のみで表現された「波」とその音。風もそよいでくる。

建物の中2階からこれを見下ろすことができるのだが、ここから見る「真夜中の海」の全景は実に気持ちが良い。海と言えば何かに例えられがちだが、コンセプトノートによれば人体、特に「波」を人の皮膚の「皺」に例えているらしい。今までの作品に比べると、明確なストーリーもキャラクターもなく、ずいぶんと抽象的な表現であることに驚かされれる。

同じく新作で、屋外投影されている《ギニョラマ》は絡み合う「手」を執拗に描いたものだ。これも世間の事象を描いているというよりは、束芋個人の内面から出てくるものを描いているであろう点では、やはり抽象的。

個人的にこの2点の作品の印象は大きく、「にっぽん」シリーズなどでは見えにくかった、束芋個人の普遍的なテーマのようなものが見えた気がした。すなわち、私的な感情をどこまで作品にストレートに落としこんでしまえるか、という試みである。
波が皺に見えるとか、ギニョール(指遊び)の面白さとかが、どこまで観客と共有できるのかはある意味で賭けだ。

しかし、これは作家であれば常に逃れられない問題でもあるし、彼女のこれまでの具体的でブラックな表現だって、思えばかなり際どいところにいるだろう。

最後にもうひとつの新作《公衆便所》。こちらは「にっぽん」シリーズのアニメーションの描写にも近いものがあり、下着一枚で化粧直しをする女子学生や、便器に亀を流そうとする女性などが同じ公衆便所内に描かれる。

しかし、それらは個々に、何か現代のある事件を想起させるとかそいういうことは全くなく、むしろ不可解な一個人の行動として認められるのみだ。最後にクローズアップされる壁面の落書きや、「蛾」もかなり謎を残す。ここにもやはり、彼女の作風の変化が見てとれる。

旧作をきちんと見せつつも、冒険心に満ちた新作と共に構成される束芋の個展。ぜひご自身の目で確かめていただきたい。

Makoto Hashimoto

Makoto Hashimoto. 1981年東京都生まれ。横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化課程卒業。 ギャラリー勤務を経て、2005年よりフリーのアートプロデューサーとして活動をはじめる。2009〜2012年、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)にて「東京アートポイント計画」の立ち上げを担当。都内のまちなかを舞台にした官民恊働型文化事業の推進や、アートプロジェクトの担い手育成に努める。 2012年より再びフリーのアートプロデューサーとして、様々なプロジェクトのプロデュースや企画制作、ツール(ウェブサイト、印刷物等)のディレクションを手がけている。「Tokyo Art Research Lab」事務局長/コーディネーター。 主な企画に都市との対話(BankART Studio NYK/2007)、The House「気配の部屋」(日本ホームズ住宅展示場/2008)、KOTOBUKIクリエイティブアクション(横浜・寿町エリア/2008~)など。 共著に「キュレーターになる!」(フィルムアート/2009)、「アートプラットフォーム」(美学出版/2010)、「これからのアートマネジメント」(フィルムアート/2011)など。 TABやポータルサイト 「REALTOKYO」「ARTiT」、雑誌「BT/美術手帖」「美術の窓」などでの執筆経験もあり。 展覧会のお知らせや業務依頼はhashimon0413[AT]gmail.comまでお気軽にどうぞ。 [ブログ] ≫ 他の記事

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