公開日:2007年6月18日

君島彩子 「つゆあけ」

私が初めて見た君島彩子の作品は、縦9mもの用紙に水墨で人の顔がびっしりと描きこまれた大作だった。今回展示されているのは、ギャラリーの壁面をぐるりと取り囲む横に長い作品。言わば「絵巻物」である。

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描き込まれているのはやはり人物。しかし、部分を追っていくごとに異なるシチュエーションが現れる。9mの大作と同様に「顔」が密集した群衆もあれば、排水溝の脇に横たわる女性のクローズアップもある。

描き方は非常に巧妙かつ淡白だ。もちろん水墨画ということもあるが、最低限の顔のパーツと、輪郭、髪の毛の表情のみでその人物がつくりあげられている。しかし、いたる所に認められる「にじみ」は異様な迫力を放つと同時に、シチュエーションの簡単な理解を妨げる。

故に、描かれた「顔」のひとつひとつを注視して見てみたりするわけであるが、今度はそもそも「顔」という人物のいち特徴にすぎない部分にどれほどの意味があろうかという疑問も浮かぶ。その空虚さや、はかなさを画面にとどめるのには、不安定な水墨という表現、十分に余白を挿入できる巻物という形状はちょうどよいかもしれない。

※発売中の雑誌『美術手帖』7月号(美術出版社)特集にも、筆者による作家の紹介記事があるのでご参照いただきたい。

Makoto Hashimoto

Makoto Hashimoto

1981年東京都生まれ。横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化課程卒業。 ギャラリー勤務を経て、2005年よりフリーのアートプロデューサーとして活動をはじめる。2009〜2012年、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)にて「<a href="http://www.bh-project.jp/artpoint/">東京アートポイント計画</a>」の立ち上げを担当。都内のまちなかを舞台にした官民恊働型文化事業の推進や、アートプロジェクトの担い手育成に努める。 2012年より再びフリーのアートプロデューサーとして、様々なプロジェクトのプロデュースや企画制作、ツール(ウェブサイト、印刷物等)のディレクションを手がけている。「<a href="http://tarl.jp">Tokyo Art Research Lab</a>」事務局長/コーディネーター。 主な企画に<a href="http://diacity.net/">都市との対話</a>(BankART Studio NYK/2007)、<a href="http://thehouse.exblog.jp/">The House「気配の部屋」</a>(日本ホームズ住宅展示場/2008)、<a href="http://creativeaction.jp/">KOTOBUKIクリエイティブアクション</a>(横浜・寿町エリア/2008~)など。 共著に「キュレーターになる!」(フィルムアート/2009)、「アートプラットフォーム」(美学出版/2010)、「これからのアートマネジメント」(フィルムアート/2011)など。 TABやポータルサイト 「REALTOKYO」「ARTiT」、雑誌「BT/美術手帖」「美術の窓」などでの執筆経験もあり。 展覧会のお知らせや業務依頼はhashimon0413[AT]gmail.comまでお気軽にどうぞ。 <a href="http://www.art-it.asia/u/hashimon/">[ブログ]</a>