「Type Trace」はソフトウエアの作品で、キーボードで文字をタイピングする時に、漢字を変換したり、途中で文章を消して直したりといった一連のプロセス全てを記録して、再生モードではそのようにしてストックされた文章を次々と見せていきます。考えを整理してタイピングの手を止めたり、文字を直したりしていると、出てくる文字の大きがは大きくなったりという仕掛けもあるようです。
この文章はもちろん完成したレビューですが、推敲しながら書いていますので、TAB上でこれをお読みの方も、展覧会場まで来ていただいてMackintosh上の「Title:Exhibition Review」をクリックしていただければ、私が文章を作成したプロセスをご覧いただくことができます。(ただし、お客様が多く書き上げないうちに終わってしまいそうなので加筆/修正が必要そうですが)
さて、このプロジェクトと作品が私たちに問いかけていることはどのようなことでしょうか。プロジェクトのテーマには「オープンソース」が掲げられています。「オープンソース」とは、端的に説明すれば文字•文章に限らず作成された「創造物」を他者にも公開して自由に利用してもらい、新しい創造的行為に役立ててもらおうという考えです。
これはソフトウエア開発において特に注目されてきた考え方ですが、絵画などでも行われてきた「引用」であるとか、音楽における「サンプリング/リミックス」といった行為をオリジナル側が積極的に受け入れていく思想だと言えるでしょう。
この「Type Trace」に大きな特徴があるとすれば、それはタイピングという行為そのものを扱っている点です。現代社会の成人であれば、もはやタイピングという行為からほとんど逃れることはできません。(携帯電話や、銀行のATMにすらキーボードはついています)
その行為を自動的にビジュアライズしてしまうこの作品を体験することで、観客は誰でもアーティスト(パフォーマー)になってしまいます。会場に観客が残した文章データをいくつか見てみればそれは明白で、中にはこのソフトの特徴を瞬時に理解し、「見て楽しい」タイピングを意識的に行っている方も多くいらっしゃいます。
Mackintosh上に残されたデータ自体は、タイピング状況のデータが付加されたテキストにすぎず、クリエイションに役立つものとは言い難いですが、このソフトを利用して様々に楽しむ観客のパフォーマンス自体を「ソース」と考えると、作家の遠藤拓己と松山真也は実にスマートにこの「オープンソース」を作品に取り入れることができている、と言うことができるでしょう。このテキストも、会場に残してきたものをさらに生かす形で加筆/修正して掲載していますので、そのひとつの結果だと言うことができます。
そういった様々なかたちで、クリエイションにおける「オープンソース」のあり方を考えるのがこのプロジェクトであり、作品の興味深いところだと言えるのではないでしょうか。9月24日に開催されるオープン・サロンでもそのような話題が出ると思われます。ご興味のある方はぜひ足をお運びください!
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto