公開日:2007年6月20日

ART AWARD TOKYO 2007

東京・丸の内。4月下旬の新丸ビルのオープンと同時に誕生したギャラリースペース、行幸地下ギャラリーで興味深い企画が立ち上がった。これは、丸ビルと新丸ビルの間に伸びる全長110メートルにおよぶ地下通路の左右両側に設定されたショーウィンドウ型のギャラリースペースだ。

「アート アワード トーキョー2007」と名づけられたこの試みは、日本国内の美大の卒業制作展で注目の作家を選抜し、行幸地下ギャラリーにて作品を展示、審査員による審査によって賞金付きの賞を授け、今後の制作を奨励しようというものだ。今回、51人の作家の卵たちが選出され、ショーウィンドウに作品を展示した。展示スペースが幅約90㎝のショーウィンドウであることから、立体のインスタレーションなどでは、ケースの幅に合わせて作品をリメイクしたものもあったようだ。

行幸ギャラリー展示風景
行幸ギャラリー展示風景

<画期的なAAT>

この試みは、いくつかの点において画期的である。

(1)新たなる才能の発掘の場
大学を卒業したての若いアーティストの卵たちがプロのアーティストとしての足がかりを掴む方法として、卒業制作展でのギャラリストによるスカウトや、ギャラリーへのプレゼンテーション、公募展への応募などがある。しかし、現実問題としてそれらの門は非常に狭く、発表の場を与えられることで伸びるかもしれない才能が埋没せざるを得ない可能性もある。アート アワード トーキョーは、その門戸を広げ、「磨けば光る才能」を一人でも多く輩出する可能性を秘めている。

そして、このような形で公の場で多くの人の目に触れ、アートの世界でプロとして活躍する審査員による審査を受けることは、アーティストにとって貴重な経験であることは間違いない。

(2)新しいアートの発信の場
今回展示していた51人の中には、すでにコマーシャル・ギャラリーでの展覧会を行ったり、これから開催することが決まっている人も何人かいた。しかし、最近では非営利組織による展覧会やオルタナティブなアートイベントなどが増えてきていて、そこをスタート地点として活躍の場を広げるアーティストもいる。これからはコマーシャル・ギャラリーで個展を開くことだけがアーティストとしての出発点ではなくなるだろう。今後はもっと色々な形でアーティストが活躍できる場が増えるだろうし、逆に、アートアワード東京をきっかけとして、より多様な形でのアート活動の広がりが期待できる。

(3)アートと街づくりの連携
若いアーティストたちにとって、このような公の場で展示がなされる何よりも重要な意味は、普段ギャラリーや美術館に足を運ばないような層の人の目にも触れるということだ。

会場は東京のビジネスの中心地、丸の内である。最近の丸の内界隈の再開発に伴って、休日も多くの人が訪れて賑わいを見せている。仕事がてら、あるいは買い物がてらに多くの通行者が作品に目を留めていく。気になる作品の前で足を留めてじっくり見入る人もいる。

公開審査中の審査員
公開審査中の審査員

<公開審査>

そして連休最後の5月6日(日)、キュレーター、評論家、ギャラリストなど7名の審査員が集って公開審査が行われた。ゲスト審査員として、アーティストの奈良美智氏も審査に参加。ショーケースの前に作家自らが立ち、緊張気味に審査員に作品についての説明をしたり、質問に答えたりしていた。

作品の前で作品について解説するアーティスト
作品の前で作品について解説するアーティスト

アーティストに作品についてのアドバイスをする奈良美智氏
アーティストに作品についてのアドバイスをする奈良美智氏

審査発表では、審査員が順番に4名ずつ気になった作家を挙げ、コメントを発表した。
どのような基準で4名を選出したかについて、審査員のコメントをいくつか挙げると、小山登美夫氏(小山登美夫ギャラリー代表):「荒削りだが可能性がある人」、飯田志保子氏(東京オペラシティアートギャラリーキュレーター):「この先が楽しみな人」、後藤繁雄氏(編集者・クリエイティブディレクター、京都造形芸術大学ASP学科教授):「我々の知らないところへ連れていってくれる人」、ということだった。

奈良美智氏は、これから発表の場を探していこうというアーティストの卵たちに対するアドバイスとして、「長い目で見て伸びそうな人かどうか判断するには、一つの作品だけではなく、ポートフォリオで昔からの作品の推移を見る必要があるので、ポートフォリオを充実させておくことが大事」とコメントした。

審査中の風景
審査中の風景

グランプリは、荒神明香(こうじんはるか)さん、準グランプリは内海陽介(うちみようすけ)さん、特別賞には大崎晴地(おおさきはるち)さんと萩原健一(はぎわらけんいち)さんが選ばれた。

それぞれのアーティストや作品についての詳細は、アート アワード トーキョーの公式サイトをご参照いただきたい。

Rei Kagami

Rei Kagami

Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour & art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&アートマーケットレポートもやっています。