公開日:2007年6月20日

ヘンリー・ダーガー 少女たちの戦いの物語―夢の楽園

ダーガーの作品には得体の知れない不条理な魅力がある。この感覚をどうして言葉に置き換えればいいのでしょうか。言語化できない「何か」が、彼の作品に触れた時に生まれてくる、そう感じずにはいられない展覧会であった。

© Kiyoko Lerner

ヘンリー ダーガー(1892〜1973)は81歳で亡くなるまでの間、完全な孤独の中で、膨大な量の物語と絵画を制作した。19歳頃から11年以上の歳月をかけて制作をした「非現実の王国で」は15,145ページという壮大な物語であり、その想像力は信じ難いものである。本展ではその一部を見る事が出来るのだが、まず、最初に記憶されるのは、そのあまりにも豊かな色彩感覚である。少女の声が響き、また咲き誇る花々の香りが漂ってきそうな程の生命感を感じる。だが、それは彼の不可思議な世界へ第一歩であり、引き込まれて行った先には、その一方で描かれた物語の異常さや残酷さに驚かされるのである。

他者との接触を拒んだダーガーの作品は、その孤高の心象世界と共に増幅していき、リアリティーとフィクションが混ざり合っていく。愛と憎しみ、善と悪、両性具有の少女達、アンビバレントな二面性が不可思議な異空間を創り出している。ダーガーの分身ともいえる人物が登場してくる事から、彼自身が世の中への不条理を感じ、その答えを探していたのではないかと考える。

敬虔なカトリック信者であったと言われるダーガーは、制作をする事でその不条理を昇華していたのかもしれない。だが、神への信仰へとすがり孤独な人生を終えた彼に、神は何かを与えてくれたのだろうか?

アートとはある種の不条理や不完全さがなければ成立しないのではないかと、それが表現世界を拡張させ、時間を経る度に生き物のように育っていくのではないかと感じずにはいられない。ダーガーの心の奥底を探っていくような、その迷宮的世界に入ると逃げる事は出来ない。これがまたアートの魅力なのかもしれない。

Kumiko Odaka

Kumiko Odaka

Freelance writer フリーライター(VERY Style Guide correspondent) 美術作品と対峙する時、視覚以外の感覚が呼び起こされるのを覚える。作品は刺激を与え、知らない世界を教え、私の心に体に潤っていく。必要なサプリメントはアート、美容に長寿にいい!と、私は信じてます。