津上みゆき 色彩溢れる風景 --色彩画家から風景画家へ

津上みゆきが2007年「春」をテーマに描いた新作を発表した。

In 特集記事 by ゲストライター @Gallery TAGBOAT 2007-07-07

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このサイトを見ている方なら、アートを見に行く機会は多いと思う。しかし、実際に買って楽しむ機会はまだまだ身近になっていないのではないだ ろうか。この特集コーナーでは、国内最大級のオンラインショップである@Gallery TAGBOATより、実際にアートを買って楽しんでいる人の姿 や、話題となっている作家やギャラリーを紹介していく。

津上みゆき View,grow,Apr.,07津上みゆきが2007年「春」をテーマに描いた新作を発表した。
《View》 と 名づけられた一連の抽象絵画から、それらが画家の生活する身近な風景のドローイングが基になっていると気づくことはまずないだろう。グリーン、イエロー、 オーカーといった自然界に見られる色彩はともかく、真紅あるいは深紅と呼ぶのに相応しい強烈な赤やショッキングピンクを実際の風景に見出すことは困難だ。

では色面と柔らかな形とからなる純粋な抽象絵画なのか、たしかにあるものはバッハのゴールドベルク変奏曲を、またあるものはモーツァルトのディ ヴェルティメントを連想させる音楽性を内包している。またあるものからはジャズファンにはチャーリー・パーカーの綺羅らかな音色、熱をもった官能性、つま り身体が火照るような熱気を感じられるかもしれない。

音楽にたとえられる美術には、どこか時間性、インプロヴィゼーションという表現が相応しい即興的な勢いがある。また美しい色彩が単純に美しい音色 を連想させることもあるだろう。しかしこれはあくまで音楽を好み憧れる者が考えることだ。食に関心の高い者には、甘い香りやビターな隠し味、とろけるよう な、口当たりの良いといった言い表し方をするかもしれない。優れた作品はそれが絵画であれ音楽であれ、人間の五感に訴えかけてくるようだ。

今まではこのように考え、色彩豊かな美しい絵画を生み出す画家津上みゆきのことを、敬意をこめて「色彩画家」と呼んできた。しかし、この春に描かれた一連の津上みゆき作品が見るものに与えてくれるのは、まさに春の気配を感じさせる明るさであり、空気であり、風であり、湿り気、温度、匂い、甘さ、酸っぱさ、といった春という季節のもたらす要素なのだ。

画家は「色彩画家」と呼ばれることより「風景画家」と呼ばれたがっているようだ。最初の風景のスケッチはもちろん道や木々、花や草、水の流れが描 かれている。それがキャンバスに向かうとそれぞれの具体的な形が基本となっているようだが、形の間に存在する上記の光、空気、風、湿度、匂いといった存在 が色彩を帯びて形象化されていく。

優しく、柔らかな色彩とそれらの組み合わせからなる絵画が決して脆弱な側面を見せないのは、基本的な構図を形成しているものが極めて安定した存在である風景であるからだろう。

繰り返しになるが以前は画家津上みゆきをルネッサンス期ヴェネツィア派の画家からプッサン、ドラクロア、マティス、ロスコ、ウォーホルと連なるコ ロリスト(色彩画家)の系譜に位置づけていた。しかし画家本人が主張するようにセザンヌを目指す風景画家として位置づけるべきかもしれない。描かれた風景 は色彩に溢れ、我々の風景を眺める視覚の働きそのものに変化を与えてくれる。それは人工的な色彩の氾濫する都市に生活するものにとっては、新鮮な空気のよ うに必要とされるものだ。


Nobuyuki Hiromoto 広本伸幸

 1950年、東京生まれ。77年、東京大学文学部卒業。大学では美学芸術学を学ぶ。86年に千葉県の川村記念美術館準備室に入り、マーク・ロスコやフラン ク・ステラなど、アメリカ現代美術の優れた作品を集める。90年に美術館が開館すると、ステラ、ロスコ、ロイ・リキテンスタインなどの展覧会を企画。美術 館での経験を生かし、2002年から@Gallery TAGBOATアートディレクターとして、現代美術の紹介に務める一方、本の執筆や講演など、幅広く活躍している。

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