破壊と再生

東京画廊+BTAPで二度目の展覧会を行うイギリス人アーティスト、ジェーン・ディクソンとのインタヴュー

poster for Jane Dixon

ジェーン・ディクソン 「Regeneration」

銀座、丸の内エリアにある
東京画廊+BTAPにて
このイベントは終了しました。 - (2008-01-16 - 2008-02-09)

In Main Article 3 インタビュー by Ashley Rawlings 2008-01-18

2004年9月、ジェーン・ディクソンは、個展『Under False Colours』展で、新作の絵画と版画を東京画廊と横浜ポートサイドギャラリーにて発表した。この展示は、保護と脆弱性の間にある二項対立を取りあげた二つのシリーズ「Warplane Series(戦闘機シリーズ)」(2001-2003)と「Camouflage Series(カモフラージュシリーズ)」(2003-2004)で構成されていた。シリーズのタイトルは、軍事的意味合い(敵の国旗で防御しながら艦船を運転する行為)だけでなく、より広義的意味合いでの曖昧性と欺瞞の本質について言及している。

今回の「Regeneration(再生・再建)」において、ディクソンは街と建築物に生じる破損と修復について探求している。物質的構造の消失と置換、物質世界と集積された意識での何かを代替することに関して描いている。

「Regeneration」は持続的、自然発生的構造を持つ大規模なプロジェクトである。制作は、2006年に作家がArts Council of England賞を受賞したことを機に始まり、その後もイギリス国内外で多数の展覧会で同プロジェクトの作品を発表し続けており、最近では大英博物館のPrints and Drawings Departmentのコレクションにもなっている。現段階で写真を構成した紙の作品が完成しており、ペインティングの作品を現在制作中である。

東京画廊+BTAP開催の『Regeneration』展は、上記のプロジェクトから、高い評価を得ている「Braille(点字)Suite」を含む版画シリーズ、「Ground Plan 」と「Floor Plan」のドローイングシリーズが一同に集まる初めての個展になる。

Jane Dixon, 'Regeneration II (Chicago)' 2006-07, Etching, 40.5 x 58.5 cm

2004年に東京画廊+BTAPと横浜ポートサイドギャラリーで展覧会をすることになったきっかけは何だったのでしょうか。

2000年の9月から2001年の9月の間、私はケンブリッジ大学のケテルズ・ヤードでアーティストフェローとして働いていました。その期間中にケテルズ・ヤードで、「もの派」の展覧会が開催され、多くの作家は東京画廊との関係がある作家でした。作家と一緒に東京画廊のスタッフもケンブリッジに来て、その時に私のアトリエを訪問されたことがきっかけです。それから約一年後、ロンドンへ戻った後、東京画廊のディレクターがアトリエを訪れ、日本で展覧会をすることを勧めて下さいました。その時はロンドンのノッティンガムにあるDjanogly Art Galleryという画廊で発表する予定の『Under False Colours』の準備をしており、その作品をお見せしました。『Under False Colours』は27点のペインティングと4点の版画で構成されている大規模な展示だったため、東京画廊と横浜ポートサイドギャラリーの二カ所で同時に展覧会を開催をしてはどうか、という話になりました。

『Under False Colours』は「Warplane Series」と「Camouflage Series」で構成されていました。二つのシリーズの違いについて教えて下さい。

戦闘機の作品は、私が90年代の後半に制作していた、「Armour Series(鎧シリーズ)」に関連した作品の発展で生まれました。最初、透ける紙に色をつけたレイヤーを重ねることで、イメージの上にイメージを重ねていくことから試作し始めました。カラー写真のネガフィルムの色を用いたので、独特のオレンジの光に覆われた非常に明るいブルー、紫、緑の色を組み合わせました。対象物には極めて不自然な色のように見えるのですが、当然それは対象物の実際の色に基づいた色であり、それが科学的なプロセスを経てネガフィルムに現れる色へと変化した結果なのです。

Jane Dixon, 'Plane Interior IX' (from the Warplane Series), 2003, Acrylic on canvas, 96 x 76 cm

どうしてネガフィルムを用いるようになったのでしょうか。

私は実物と形成物の融合をとても刺激的と感じます。前述のフィルムが持つ色合いの他に、透明なものとしての傷つきやすさにも惹かれるものを感じます。本質的に揺るぎのない物質として存在するものが、非常にはかないものに変化するということは、私にとって大変魅力的なことなのです。

「Warplane Series」においても、ネガフィルムが出発点となっていましたよね。

先ほどお話した小さなネガフィルムは私の創作意欲をかき立ててくれたので、さらに他のシリーズで展開させて行きたいと思っていました。私は人間の体や経験と関連性のある機械や機械化されたもののイメージを取り上げることがよくありますので、いつか人間の脆弱性について考察する中で、戦闘機を比喩として使うこと長い間考えていました。作品は、使われなくなり、朽ちて骸骨のようになりかけている戦闘機の構造を出発点としています。「Armour Series(鎧シリーズ)」で、層を重ねることでイメージを出した代わりに、このシリーズでは図面化された飛行機が半透明のアクリルの中に浮遊しているイメージで、一時停止状態にある生命への感覚を目覚めさせ、脆弱性の身体的実感へと誘導しています。イメージは隔絶されたものではありますが、視覚的に周囲と連続性をもっており、飛行機の物質性とそれを取り囲む空気の実体性の無さは、不在と存在、具象と抽象について想起させると思います。

Jane Dixon, 'Untitled I' (from the Camouflage Series), 2003, Ink and acrylic on canvas, 71 x 86 cm

「Camouflage Series」は第二次世界大戦時のおとりやカモフラージュされた建物の写真を元にして制作されたペインティングのシリーズでした。なぜ、このような建造物をこれらの作品のテーマにすることになったのでしょうか。

私の関心事は視覚的な騙しにありました。これらの建物は、武器倉庫や軍事施設をできるだけ善良に見えるように隠すため、あり得ない構造をしていていました。私はこれらの建物の本質にある、そうでないものに見せかける、という策略を視覚的に探求してみたかったのです。他の私の作品と同様に、主題と方法の間には極めて強い概念的合致が存在し、一体化された表面と筆跡の構造、表面にインクではかなく描かれたイメージは対象となっている建築物の本質とは対照的な軽さを生み出します。見る人が作品に入り込むほど、そのイメージの「ニセ」の実在性が明らかになってきます。

何年もの間、軍事的なモチーフを用い得ることで、戦争に関しての脆弱性の重要さを特に探っていらっしゃいますね。「Regeneration」プロジェクトとの繋がりと関係性を含めて、少しお話いただけませんか。

私は常に曖昧性、そうあること、そうでないことの間にある境界線に興味を持ってきました。不在と存在の二項対立は社会と個人の脆弱性を想起させる何かの痕跡や手掛かりとして私の作品の焦点となっています。保護する「皮膚」としての鎧や脆い構造の戦闘機といった軍事的なイメージを用いてきましたが、一端にそれは、戦争というものが普遍的に人間の脆弱性の極限状態であると私が思うからです。医薬関連のイメージも過去に用いてきましたが、これに関しても、保護するものでありながら、侵略的にもなり得る対象であるという境界線に立ち、似た様な観点から制作してきました。

街、孤立した建物、という比喩は私にとって、その実在性にもかかわらず移り変わって行くものという点、過去と未来という二つの要素を同時に有する点で興味深いのです。ですから、写真を材料として用いる事は、写真がはかない一瞬を永久的にするという固有の矛盾を抱えている故、私に適しているのだと思います。私が写真に収めている街は、総じて既に破壊や破損の後に再生された街であり、言ってみれば、過去を考察し、起こりうる変化した未来を予測する、軸となる位置で私は作品を制作しているのです。

Jane Dixon, 'Yokohama II' (2007), Graphite on gesso and polyester, 102 cm x 158 cm

2004年に初めて日本を訪れたことは作品に何らかの影響を与えたでしょうか。

日本を訪れたことは私にとって様々な面で大きな影響がありました。私の場合、吸収した刺激が何年も後になって作品の中に表れてくることがあるので、恐らく当時の経験が将来、表面に出てくるということがあると思います。訪れた時点では、既にプランを立て始めていた「Regeneration」作品への直接的な影響がありました。それまで何年も、戦争やその他の人的、自然的な原因によって被害を受け破壊された街の写真を撮っていました。例えばベルリンやシカゴを既に検討していましたが、滞在中に東京と横浜で撮影したイメージは既にあったこのプロジェクトの構想に新しい側面を加えたと思っています。

加えて、日本には一時的なものに対する尊重、さらに言えば崇拝があるということに興味を持ちました。具体的な例では、伊勢神宮の遷宮がありますが、建築における紙や木の利用にもみられるように、地震の多い国ならではの構造の弱さへの備わりついた自覚、状況の変化を受け入れる鋭い感覚といったような、細やかな感覚の基盤があると思います。これらの特徴はその時に考えていた「Regeneration」作品の構想に非常に同調していると感じました。

Jane Dixon, 'Ground Plan V' (From Regeneration), 2007, Graphite on paper, 59.5 cm x 84.5 cm

今回の展覧会で展示される新しい作品、「Ground Plan」と「Floor Plan」のドローイングと「Braille Suite」と「Regeneration Suite」のエッチングは2004年の作品と手法が大きく異なっています。

今回のドローイングは、「摺り写し」の層によって出来上がっており、考古学や科学捜査から取り入れた視覚的、また一部の物質的手順、例えば精密に表面を露にすること、表面に出ている層によって過去を分析するといった過程、を用いることで、主題と手法の概念的な合致を強調しています。私は、今回のドローイングを現代のパリンプセストだと考えています。黒鉛による摺り写し、実際の建物から直接写し取られた跡、写真から制作したレリーフ状のペインティングの摺り写しが組み合わさって層が作られています。ペインティングは工程の一環だったので後に破棄しました。ペインティングの実在性を用い、ドローイングを制作、何かはかないものを作り上げることに興味があります。

完成したドローイングの層は、実在と形成物、両方を内蔵しています。そこには、印の繋がりを構築するために、3、4の連続した層が、異なる組み合わせで存在することもあります。個々の建築物について取り上げることもあれば、都市の景観であったり、何も無い曖昧な空間を描いていることもあり、作品は理論上の掘削作業の様なものです。

Jane Dixon, 'Regeneration I (Chicago)', 2007, Etching, 56 cm x 42 cmJane Dixon, 'Regeneration IV' (Chicago), 2007, 74.5 cm x 57.5 cm, Etching

ドローイングと一緒に、「Regeneration」に関連する版画のシリーズも全作品発表します。「Braille Suite」は5のエッチングによって構成されており、それぞれイタロ・カルヴィーノの本「Invisible Cities(邦題:マルコ・ポーロの見えない都市、原題:Le Citta Invisibili 1972年) 」から引用した文章が元になっています。各文章を点字に書き直し、空押しのエッチングとして刷りました。視覚ではなく触覚のための言語で表され、しかしガラスで覆われては読む事ができず、描写されている都市は、一度は見つけられるけれども見失われてしまい、たどり着く事が出来なくなるのです。

「Braille Suite」に関しては、東京画廊の今回の展示の為に先のエッチングに用いたプレートから、直接摺り写した作品を新たに制作しています。これらは通常作品に添えられているような説明の板や画像の情報を記したものにあたります。もちろん、これらはこの場合、エッチングの意味と内容を混乱させることになります。複雑性をできるだけ強固なものにし、意味の微妙なニュアンスと解釈、言語さらに言えば視覚的言語によって失われ、変化する事実を描くことで、解釈、複写をすることの概念について、一つ段階を先に進めたいと思っているのです。

「Regeneration Suite」は都市の景観を撮った写真を直接的に使用したエッチングの4作品で、シカゴの作品が3点、横浜の作品が1点で成り立っています。オリジナルのフィルムをデジタルで操作し、建物の特徴とされる情報を失う事無く基本にある物理的構造が見えてくるようにしました。そして、出来上がったイメージを写真の要領でエッチング用のプレートに転写し、手で印刷しました。このような過程によって、視覚と実在的三次元性の間における不一致とデジタルとアナログの間における対話と関係性を強調しています。

Jane Dixon, 'Ground Plan III' (From Regeneration), 2006, Graphite on paper, 59.5 cm x 84.5 cm

今後の予定は?

「Regeneration」のプロジェクトは持続的な性質のものですから、新しい作品のグループを制作していきます。その作品と現在の紙を用いた作品を一緒に見せることで、プロジェクトの全体像を紹介したいと考えています。

一方で、2001年にケンブリッジのケテルズ・ヤードで企画した展覧会と似た様な構成のものを発展させることに関心を持っています。展覧会は『Solid State: reflections upon the real(固体状態:実体についての考察)』といい、コーネリア・パーカー、映像アーティストのジョン・スミスといったアーティスト、昔の作品、例えばナウム・ガボの作品を交え、さらに記録写真と科学的材質も展示し、私が作品制作にあたって用いるアプローチをもとに構成されました。何かが「real(実在・本物)」であることはどういうことなのか検証したのです。現実の様相を表現するために、主題と方法を合致させ、概念と物質について探索する展示になっていたと思います。

再度このような展覧会をする機会を是非持ちたいと思っていますが、次回は「Regeneration(再生・再建)」、つまり、考古学、画像化とスキャンすること、建築と科学捜査を私とその他の作家の作品を関連づけた形で考察するものにしたいと思っています。今はこの展示を共同で企画できる適切な場所を見つけ、この考えを発展させていくため、制作を続けています。

(和訳:手銭和加子)

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