アーティスト照屋勇賢によるコレクターへのインタビュープロジェクトをシリーズでお届けします。
第1回は、沖縄の染めを行っているアーティスト、名嘉原美喜絵さんのお母さんである名嘉原トモ子さんです。名嘉原さんは、照屋氏が沖縄滞在中に作業場を無償で提供して下さった方です。名嘉原さんが最初に購入した娘さんの作品と、美術作品を買うことへの思いについて伺っています。

名嘉原:芸術って言うのは、美術館で見るものと身近なものと二種類があると思う。高価で、自分の手の届かない範囲を見るのが美術館。身近に置けるものっていうのは自分の手の届く範囲のもの。美術館で見るものはそれなりに素晴らしくて良いものだけど、自分の部屋に飾るには、あまりにも素晴らしいものだと似合わない。自分に合ったものが一番素敵で良いと思う。心に残るものであれば、どんなものでも身近に飾っていけば良いって思う。
照屋:過去にお会いしたコレクターの方も、最終的にそういうこと話されますね。公共的な作品、沢山の人の間に一つの共通項として成り立つものと、もっと個人的な関わりの作品。
名嘉原:作品を買って、飾っていつも眺めて、ああ良いなって感じる、それだけで良いんじゃないかなって思うんですよ。高価なものを求めたいという気持ちは全然ないし。
照屋:今壁にかかっている作品は名嘉原さんの娘さんの大学四年間の卒業制作作品をお金で購入した形なんですよね。
名嘉原:五万円ちゃんと通帳に振り込んでありますから。でも私はこれが娘の作品だから、誰々の作品だからじゃなくて、けじめとしてお金で買うってことがとても大切だと思った。赤の他人だろうが身内だろうが関係無く、この作品を作った人の心を私としてはお金でしか表現できない。タダで貰った時には自分のものではないと思う。私はこれを娘のものじゃなくて作品として買ったつもりなの。だから所有権は私のものよっていつも言うわけ。どっかの作品展に出すよって言っても、これは私の所有権があるものだから私に断ってからきちんと出してねって。
この部屋にはこの絵がぴったり。誰かが見ても変な部屋って思うかもしれないけど、私にとってはこの作品があるから何かバランスがとれている。
照屋:作品との素敵な関係が自立していくことがとても良いなと思いました。
名嘉原さんにとって、例えば五万円出して手に入れた作品と、同じく五万円で手に入る鞄や服などの間に何か違いはありますか。
名嘉原:それとこれとは別の問題。数が多ければ良いというのがファッションだと思うんですよ。けどそれって限りがないと思うの、良いものを求めたら更に良いものが欲しいっていうのがファッション。作品っていうのは一点しかない。この一つ以外に良いものが無いんだって思えば、同じ五万円であっても、スーツを買うことと作品を買うことは価値が違う。作品って価値が下がらないと思う。だから買って後悔はしないし、限りのない欲が出ないものだと思う。良い作品っていうのは一つに満足してしまって、さらに良いものを求めたいとかそういう欲は出ないものだと思いますよ。
照屋:それはコレクターの方たちが共通しておっしゃることですね。
名嘉原さんはアートが自分の部屋にあることによって生活がどう変わりましたか。
名嘉原:最近安心して眠れるようになった。これって部屋の環境が変わったからじゃないかなって思う。嘘みたいだけど、ここ2年くらい、夜の音に対する恐怖がなくなってリラックスできている。この作品はここにあるべくして作られたものかなぁって思う。
照屋:名嘉原さんは建築の仕事をなさっていますが、会社の一部を作家とコラボレーションされるそうですね。
名嘉原:会社の看板を依頼しているんです。美術作品っていうのは飾って人に見せるだけのものではなくて、生活の中で、例えば建物の一部として取り入れても良いんじゃないかというのが私の考え。
照屋:作家を知って、話し合いをして、新しいものが出来上がる過程は面白いですね。そういう機会がもっと芸術家と社会の間にあっても良さそうですね。
名嘉原:いつも既製品が良いと思うのは時間に終われているからかもしれないですね。手作りと言うのは失敗もするし、思うように行かない時もある。けどあえてそれを味わいとして考えれば良いと思う。別に無理して完璧なものを求めなくても、例えば少々亀裂が入ろうがヒビが入ろうが、それはそれで味わいとして受け止めれば良いんじゃないのかな。出来上がった看板を飾れば、うちの会社を訪れた方達が絶対感動すると思う。時間をかけて気持ちを入れこんで作った作品と言うのは通常の既製品とは全然違う。そういったことは自分の仕事である家づくりにも生かしていきたいなって思う。ありきたりのことを毎日毎日同じようにしてしまうと、本当に心のこもった家づくりは出来ないと思うので。家と芸術作品は切っても切れないと思います。
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[コレクターインタビュープロジェクトに寄せて]
このコレクターの方々へのインタビューは、「僕の作品を買って下さった人はどんな理由で作品を購入したんだろう」という単純な疑問から始まりました。
僕が最初に個展を行った時、混み合う会場で、ギャラリストに呼ばれました。購入を検討しているお客さんがいて、作品のコンセプトと、耐久生性について質問したいということでした。別室に入ると、そこにはバレエレッスン帰りの白いタイツの女の子が部屋の中心にいました。彼女は、説明を丁寧に聞いた後、ほかの展示会も見てまわって、僕の作品の購入を決めたと僕に伝えてくれました。僕の一番若いお客さん、11歳のミアさんが購入した僕の作品は、彼女のアートコレクションの6作品目でした。
それから僕は、前に作品を購入した方をもう一度訪ねて、どのように彼等の生活に美術作品が存在しているのかを見せてもらい、作品を購入することについてお話を聞いてみました。作品を買う人もクリエイターだとつくづく感じます。なぜならば、彼等の作品への評価は、彼等の感性への評価とも言えるからです。彼等も作品を評価していく価値観をこつこつ社会に発信しているからです。
アートマーケットの拡大化や、流行が渦巻いていても、その下には、ゆっくりとした流れもあり、作品が売れる時、つくる人と、買う人の間には、個人同士の関係があるように感じます。また、一つしかない作品の存在も大切な要素になるのではないでしょうか。
ここで個人と個人との間で生まれた作品への思いやお話を一部でも紹介できればと思っています。
照屋勇賢
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「アトミックサンシャインの中へ」渡辺真也・照屋勇賢インタビュー Vol.1
http://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2008/07/interview_atomicsunshine1.html
照屋勇賢@Gallery TAGBOAT(売上の一部が「アトミックサンシャインの中へ」の運営資金になります)
http://www.tagboat.com/contents/select/vol91_teruya.htm
ユミソンによる「アート・スコープ 2007/2008」(照屋勇賢出品)レビュー
http://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2008/07/artscope20072008.html


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