公開日:2008年9月28日

鳩時計 push me pull you「澄敬一の仕事」展

各界のクリエイターたちを魅了するクリエイター

展示風景
展示風景

澄敬一という男がいる。松澤紀美子というパートナーと、古い道具や素材を組み合わせて新たに道具を生み出したり、オブジェを生み出したりしている。彼らをアーティストと呼ぶべきか、デザイナーと呼ぶべきか。そのどちらでもあり、どちらか一方だけにも収まらない。

澄氏はかつて、美術書なども扱うインテリアショップ「push me pull you/プッシュ・ミー・プル・ユー」という店を構えていたというが、今は店を閉め、東京の一隅に構えた工房で制作に励んでいるため、その仕事を目にすることはなかなかできないという。その仕事に触れることのできる希少な機会が、クラスカでの展示である。

鳩時計
鳩時計
たとえば、文字盤のない鳩時計。毎時、0分と30分になると鳩が出て来て時を告げる。規則正しく鳩が出てくる仕掛けだけがひっそりと機能し続けている木の箱が、殺伐とした都会の時間の流れを変える装置に思えてくる。

ネオン管と電線をつないで作った、正十二面体の「電気花」。
自転車のサドルにベッド用のスプリングとキャスターを付けて作った「枕」。
壊れたイーゼルの部品を組んで作った小さな裁縫箱。
戦時中に使われていたコートから作ったエプロン。
縫代が見えないように丁寧に重ねて縫われたガーゼの手ぬぐい。

すべてのものには寿命がある。使えなくなったものを捨てて新しいものと替えるのではなく、まだ生きている一つ一つの機能を取り出し、最大限に活かすための工夫。一つ一つの仕事が丁寧で端正で、その中から再生されたものたちは、静かに心に訴えてくる。暮らしの中の必要性から人の手がものを生み出すという、プリミティブな行為の中に、洗練された創作のかたちをみる。


展示風景
展示風景
偶然にもクラスかでの展示を見た翌日、英国でもう25年も古い家財道具に命を吹き込む造形を続けて来たBailey夫妻の仕事を目にして、すぐに二人の仕事を連想した。澄氏と松澤氏の仕事には、その丁寧な行為の中に、日本人的な現代のミニマリズムを感じる。削ぎ落としてシンプルさを追求するミニマリズムではなく、ものに真摯に向き合い、丁寧に作り込んでいく和製のミニマリズム。

澄氏がかつて営んでいた店の名前である「push me pull you/プッシュ・ミー・プル・ユー」とは、澄氏が影響を受けたというウィリアム・ギブスンの小説に登場する双頭のトカゲロボットの名前から来ているようだ。二人の仕事を知った今、「push me pull you/プッシュ・ミー・プル・ユー」とは、このトカゲのように異なる要素を持った二つのものが一つの個体の中に共存し、互いに補完し合っている現在の二人の仕事の象徴のようにも思える。



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Rei Kagami

Rei Kagami

Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour & art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&アートマーケットレポートもやっています。