公開日:2009年1月5日

「Haptic -触覚」展

ヴィック・ムニーズのキュレーションによるグループショウ

エリカ・ヴェルズッティ
TWS本郷で開催中の「Haptic -触覚」展のオープニングの模様をお伝えします。本展はTWS渋谷で 「ビューティフル・アース」展を開催している、ヴィック・ムニーズのキュレーションによるもので、日本・ブラジルから選ばれた6名のアーティストのグループショウです。

ヴィック・ムニーズはアーティストですが、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のコレクションから作品を選んで展示する「アーティスト・チョイス」展のゲストキュレーターとして選ばれるようなキュレーション力の持ち主でもあります。なので本展はアーティストの作品だけでなく、企画者が発する全体のメッセージ「Haptic -触覚」に耳を澄ませながら体験するとより楽しめるかもしれません。

エリカ・ヴェルズッティの展示は、子どもが作った動物園のようです。重心が危ういものたちがバランスを崩しそうで崩さずに、ぽつぽつとただずんでいます。それらは左上の拡大写真にあるように、既製品などの組み合わせで出来ていて、本来の物が持っていた意味とは違う意味を持つ(または意味をなくしてしまう)作品を制作していました。「いつもは生野菜を使っているけれど、今回はオモチャの野菜を使ってみた。」と言っていました。彼女の作品は東京都美術館で開催中の「ネオ・トロピカリア:ブラジルの想像力」展でも見ることができます。

エフライン・アルメイダ
作品説明をするエフライン・アルメイダ。小さくてわかりずらいですが、後ろには木でできた蛾が展示してあります。木目と羽の模様の相性がよく、キレイな作品です。一つ一つが丁寧な技術で作られています。日本の古い刺青のデザインにあった蛾をモチーフにしたそうでが、刺青のデザイン特有の湿度と粘度はなくなり、その形だけをとどめています。

左写真は本人…ではなくて、本人の木彫。背中には和風の青いタトゥーがありました。本人の両腕にもTシャツの袖から覗いていましたが、ご自分でデザインしたのでしょうか?右写真は木彫ではなく、ホンモノのアーティストのエフラインとキュレーターのヴィック。最初に本展のアーティストとして声をかけたのが、エフラインだそう。日本人アーティストはTWS側から渡されたファイルでの選考だったので、(日本人の名前に馴染みがないので)男性だか女性だか判断できなかったそう。結果、男性アーティストは一人になってしまって…幸せだと言っていました(笑)。

窪田美樹 展示風景
窪田美樹の展示風景。木目に色を混ぜたパテを埋め、平らにやすっています。平らなので影がない、「かげとり」作品です。触るとつるっとしているのかもしれませんが、パテが作る様々な色彩が目には光になり影になって認識されます。平らでなかった本来の木目の方が平面的で、平らになった「かげとり」の方が立体的に感じます。展開され別の形にされた(もと)家具たちが、視覚と触覚の間で横たわっています。

宮永愛子 展示風景

宮永愛子はタンスの防虫剤などに使われるナフタリンを素材として作品を作っています。今回は、初の試みとして作品の「型」も展示しています(写真右下)。今まで作ったことのない大きな形の旅行鞄です。そして今までとは違って、形が取れなかったようです。崩れてしまった鞄に鍵を添え外国の新聞を貼ることで物語性を出し、作品として完成させています。一緒のスタジオだったエリカのどんどん形を変えていく制作方法に影響を受け、予定通りにならなかった時のやり方を学んだと言っていました。

長井朋子

長井朋子は展覧会初日だからか人が多いからか、始終ソワソワしていました。自作品の説明も言葉少なかったですが、今回は壁に直接描くことも試みたと言っていました。スタジオ制作以外の作品も出していたので作品点数は多く、壁に描く展示方法が空間に溶け込んで柔らかい雰囲気です。展示空間の作り方として成功していると感じました。

レダ・カトゥンダ 展示風景

レダ・カトゥンダは、自国の素材や日本でよく通った東急ハンズでみつけた素材を組み合わせて一つの平面にしています。全体を見た時と一つ一つの素材を見たときの印象が違います。最初に紹介したエリカと同じように、作品の意味(または意味のなさ)と、もともとが持っていた物の用途や意味が同時に感じられる作品ですが、組み合わせの接合部分の仕掛けなのか全体の色調の仕業なのか、個々のマテリアルが何か特別な思い出や物語を持っているような雰囲気をかもし出していたのが印象的です。

また本展はTWS青山で滞在制作されたもので、その様子は「TWS青山:OPEN HOUSE 2008-05」にフォトレポートがあります。

yumisong

ふにゃこふにゃお。現代芸術家、ディレクター、ライター。 自分が育った地域へ影響を返すパフォーマンス《うまれっぱなし!》から活動を開始し、2004年頃からは表現形式をインスタレーションへと変えていく。 インスタレーションとしては、誰にでもどこにでも起こる抽象的な物語として父と自身の記憶を交差させたインスタレーション《It Can’t Happen Here》(2013,ユミソン展,中京大学アートギャラリーC・スクエア,愛知県)や、人々の記憶のズレを追った街中を使ったバスツアー《哲学者の部屋》(2011,中之条ビエンナーレ,群馬県)、思い出をきっかけに物質から立ち現れる「存在」を扱ったお茶会《かみさまをつくる》(2012,信楽アクト,滋賀県)などがある。 企画としては、英国領北アイルランドにて《When The Wind Blows 風が吹くとき》展の共同キュレータ、福島県福島市にて《土湯アラフドアートアニュアル2013》《アラフドアートアニュアル2014》の総合ディレクタ、東海道の宿場町を中心とした《富士の山ビエンナーレ2014》キュレータ、宮城県栗駒市に位置する《風の沢ミュージアム》のディレクタ等を務める。 → <a href="http://yumisong.net">http://yumisong.net</a>