マストワンという作家をご存知だろうか。「妖怪」という存在の不可視性を追求し、作品として視覚化する作家である。彼の表現の背景には、その妖怪たちが宿るといわれる自然の存在が大きそうだ。皆が想像するような一般的な姿の妖怪のみにとどまらず、民家の軒下に昆虫が形成した巣や長年潮に漬かっていた桟橋の木材などを作品のモチーフとして選び、人間と自然の接点の部分にフォーカスしている。
東京という都市生活において、神秘や畏怖は人工的に形成されるものという感覚にいつの間にか陥ってしまっている。その理由として「生命のサイクル」を隠す文化があげられる。現代社会において人の死に場所はもはや病院だ。東京において事故死を除けば、病院や施設などで亡くなる人々は実に98パーセントにものぼるといわれている。このパーセンテージは高度経済成長にあわせて右上がりなのだ。ということはそれ以前には死というものは生活に非常に密接であったといえよう。人々は死という感覚をより近くに置いて生活し、肉体は自然界からのリサイクルでありレンタルであるという自覚が強かったようにも思える。
彼は独自の感覚で自然を観察し「生命のサイクル」いわば「輪廻」のようなものを感じ取り、それらを妖怪という形を通して再構成する。一つ一つの作品の強さや展示空間の異様さなどはそのためなのだとあらためて考えさせられた。