東京発・伝統WA感動『東京大茶会2010』

伝統文化から得る現代生活へのヒント

In 特集記事 by 東京文化発信プロジェクト 2011-02-04

東京文化発信プロジェクトとTABがタイアップしてお届けするシリーズ記事。
第9弾は、「茶の湯」に触れながら秋の一日を過ごす『東京大茶会』をレポートします。

「お茶室での茶会はとても静粛な雰囲気のなか執り行なわれますので…」と事前に聞いて慌てて予習……
お茶碗を受け取ったら時計回りに何回転? 「ケッコウナオテマエデ」?? [吉岡理恵]

東京大茶会の魅力は、誰でも気軽に文化的、歴史的に価値のあるロケーションでお茶を楽しめるところ。今年も、江戸東京たてもの園と浜離宮恩賜庭園の2会場で開催されました。江戸東京たてもの園(小金井市)は、歴史的に価値のある建造物が建ち並ぶ野外博物館です。園内には江戸時代から昭和初期までの、27棟の復元建造物が建ち並び、タイムスリップしたような気分でのんびりと過ごすことができます。



私が参加した浜離宮恩賜庭園は、園内の池に海水を導き、潮の満ち干きによってその趣を変える江戸時代の代表的な大名庭園です。都心ながらこちらも街の喧騒から離れのんびりとした時間を過ごせるスポット。遠くには、汐留の高層ビル群との、東京らしいコントラストを描いた景色が広がります。

浜離宮恩賜庭園では、園内にある中島の御茶屋と芳梅亭でのお茶席と、内掘広場に4席の野点席が用意されました。野点(のだて)とは、屋外でお茶を点(た)てる茶会のことをといいます。

かつて豊臣秀吉は、京都北野天満宮に800以上の茶席をつくり、北野大茶会(きたのだいさのえ)を開きました。秀吉は「数寄者」(名物マニア)であれば手持ちの道具を持参せよと、身分上下の別なく参拝者全員に茶を振る舞ったそう。「東京大茶会」はこの故事をヒントに 2008年に始まりました。

茶道が女性の教養として定着したのは明治時代に入ってから。特に茶の湯が始まった戦国時代では秀吉や信長といった武将たちが、それに興じていました。なかでも信長は、「平蜘蛛の茶釜」を手に入れたいために戦を開いたという説もあります。その持ち主の松永久秀は、信長に渡してたまるかと茶釜ともに爆死したとも。また、千利休は、信長の茶頭(さどう・茶道の指南番)になることで世に出た人物です。茶室では、刀を下ろして戸口に置いていくのがルール。茶室の空間は、互いに心を許しあい、密会をする場でもあったそう。

一方で、野点は、武将が遠征先で景色を見ながら一息をついてお茶を楽しんだことを由来とする戸外でお茶を点てるスタイルなので、茶室での茶席に比べてカジュアルな茶席です。いわばピクニック式のお茶会です。

当日、大勢のお客さまの中には、白と黒の個性的な着物ながら、きれいに髪を結いあげておめかしした若い女性の姿も。野点席に案内されると、目の前の小上がりでお点前が始まりました。

待合席から一番に案内された人が、この回の一番の上座「正客」(しょうきゃく)に決まりました。亭主(お点前を点てる人)が選んだとっておきの茶碗でおもてなしを受けられます。

参加者の皆さんはうらやましそうにお茶碗をのぞきこみますが、茶室での静粛なお茶会では、つまり亭主の趣向を敏感に察知するセンスが要求される立場。亭主とのやりとりをこなす茶道の知識が茶会の盛り上がりを左右すると言われており、緊張感が漂います。
東京湾からの海水をひいた潮入りの池のある浜離宮庭園。正客のために、今日は晴海をイメージして、海の絵柄が入ったお茶碗を用意したそう。

さて、順々にお茶が運ばれてきて、いよいよ自分の元へ茶碗が運ばれてくると、まず一礼をして感謝を伝えてから、右手で取り、左手の手のひらに載せます。そして、右手を使って茶碗を右手前に回して、正面(絵柄が描かれている面)をよけていただきます。(これは流派によってさまざまです)のみおわったら、今度はまた反対に回して自分の方に正面を向けます。正式な茶会では、「もう一服いかがですか?」「お先に頂戴します」と言葉を交わしあうなどのやりとりもあります。

外国人向けのイングリッシュ野点では、英語の解説と合わせてお茶が振る舞われました。
ここでは、茶の湯の精神から説明が始まりました。




「和敬静寂」という言葉は、千利休によって大成されたわび茶の精神を表現した『四規』。

和 人との協調性を大事にすること
敬 目上の人や客を敬うこと
清 心清らかに
寂 心静かに穏やかに

ここで、今日、助っ人として同行いただいた赤塚有休さんの登場です。
赤塚さんは、オフィスの給湯室を利休がつくった狭い「わび茶室」になぞらえて給湯室で正座してお茶を点てる時間を提案するユニークな活動(その名も「給湯流茶道」)に参加をしています。現代の私たちはどのように利休の思いを読み解けばよいのか尋ねてみました。

「茶室の入口に一歩入る前にすべてを捨てるということ。
つまり頭で作り上げてきた概念を捨て、常に新しき心にて挑む。
利休の言ってることは実はあたりまえのことだと思うのです。
ですが、人が持ってしまう見栄や知識、概念が邪魔して過剰なしつらえや格好をつけてしまいがち。
それらをすべて捨て去ることで本質が見えてくるのだと言われていると思います」

なんだか自分の日頃の行いについて言われているようですね。

「一期一会」という言葉は、よくお茶で使われる言葉。単なる出会いのことをいうのではなく、いまこの瞬間をいかに大事にできるかということを意味し、一期に一度の会のように亭主を敬わなければならないという茶道の理念を現しています。


さて、次は「中島の御茶屋」でのお茶会です。
お伝い橋を渡り、潮入りの池にある小さな島に移動し「茶の湯」の世界へ。正式な茶室は、露地という庭の中に独立した一棟になっています。露地を通って茶室に入ることによって日常生活を断ち切って、茶の湯の世界に浸るのです。

こちらでは静粛な雰囲気の中、お茶が振舞われます(事前予約制)。お茶が順々に振舞われ、終わりを迎えると、正客が中心になって亭主との会話の時間が始まります。床の間に飾られた書、花などを話題に会話をたのしみます。

茶席では、連歌などにみられる日本的な不足の美を求める工夫がこらされています。例えばこの席では、掛け軸に、山がそびえ、その周りに水辺が広がっている風景について書かれ、茶室の外の景色を思わせます。床の間にはなすの形をした香合(こうごう・お香入れ)、活花で秋を印象づけます。亭主の話を聞き、潮入の池の水辺の音、遠くで鳴く鳥の声に全員が耳を潜め、茶室の中が静まりました。


「和敬静寂」「一期一会」どちらの言葉も日々のくらしでもいえること。
わたしたちは、ほかに何を日常に活かすことができるでしょうか。

茶道で「よいもの」に触れる機会は、デザイナーとしての自身の制作活動に還元されていると給湯流茶道の赤塚さん。

「大量生産される100円のお皿やコップ。気に入らなくなったら捨てて、また買えばいいという生活になってはいないでしょうか。ずっと残しておきたい、大切に使いたい良いものもあるはずです。茶会を通して、私たちはどんな文化背景の中で生まれたのかな? と探究心を持ち、ものに対する愛情を深く感じることができると思います。」

古い桐箱に入った茶道具は、人から人へ譲り渡されて使われているものも多く、箱には過去の持ち主の名前が残されています。日常では触れられないもの、お金では買い換えられないもの、それらの扱い方を学ぶ場としての茶道。週末には正式なお師匠様の元で稽古を積んでいるそう。そこへ通うことは作法を習得する以上に、民芸や歴史に触れることのできる大切な時間だと赤塚さんは言います。

作法を間違えたら恥ずかしい。怒られる? 初心者は、そんなことばかり気になるもの。お茶をのむ前に、お茶碗を回転させるのは、正面をみてもらうために出された絵柄を口で汚さないようにする思いやり。ホスト役の亭主が用意してくれたもてなしを受け取って、会話を楽しむことにも茶の湯のおもしろさがあります。茶杓のもち方や道具を拭くふくさの扱い方、畳の歩き方ひとつをとっても初心者からすると複雑で頭が痛くなります。けれど、それらの所作は、スムーズに一期一会のお茶の時間を過ごすための思いやりによるもの。

茶の湯にはいろいろな楽しみ方があります。美術が好きな人なら、陶芸や書、工芸品、床の間に飾られる活花があります。和服を着る機会ができることだって楽しみのひとつになるでしょう。茶の湯にはそういった多くの楽しみの入り口が用意されています。さて、どちらから入ってみましょうか?

TABlogライター:吉岡理恵 富山生まれ。アートプロデューサーのアシスタントを経て、フリーランサー。展覧会企画、ウェブを中心に、エディター、ライターとして活動。2010年より横浜ベイクォーター「Gallery Box Exhibition」企画を担当 他の記事>>

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