情報化や都市化の進行によって、生活様式やパブリックスペースの在り方は変化してきた。都市の問題、人口の増加や高齢化、少子化問題など、私たちをとりまく状況に対して、建築家やアーティストはどのような応答を示すのか?
『東京アートミーティング(第2回) 建築、アートがつくりだす新しい環境―これからの“感じ”』は、現代アートを中心に、デザイン、建築などの異なる表現ジャンルが出会うことで、新しいアートの可能性を提示する展覧会だ。フランク・O・ゲーリーの新作や、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したヴィム・ヴェンダースといった建築界、映画界の巨匠たちの他、建築家の石上純也、藤本壮介、アーティストの荒神明香ら若手作家の作品を紹介している。
昨年の『トランスフォーメーション展』に続いて2回目となる今回の東京アートミーティングは、建築家ユニット、SANAA(妹島和世+西沢立衛)と東京都現代美術館の共同企画によって実現した。本展では、14カ国から28組の建築家、アーティストが参加し、それぞれの空間における実践、試みが、模型、ドローイング、映像、彫刻、写真、ミクストメディアのインスタレーションといったさまざまなアプローチで表現されている。
展示室の最初に置かれるのは、今回の空間構成を担当する SANAA による建築模型だ。
スイス連邦工科大学ローザンヌ校のキャンパス内に計画された「ロレックス・ラーニングセンター」は、学生や教職員、地域の人々に開かれた学習センターであり、図書館、多目的ホール、オフィス、カフェなど、多種多様なプログラムを内容した巨大な一室空間で構成される建築物だ。丘陵に、布を覆いかぶせたような、165 m × 121.5 mの建築物は、空中にせり上がったり、地面に沿ったりと、内部が緩やかに隆起していて、室内に地形的な空間をつくりだしている。室内に仕切りを立てて空間を区切っていくのではなく、大きさや形の異なる14の中庭の穴をあけることで、空間を緩やかに文節し、さまざまな性格の空間をつくりだすことに挑戦している。
本展の空間構成を担当した彼らは、個々の作品によって性格づいた空間と空間が共存し合い、ひとつのランドスケープを構成することを目指したという。
ヴィム・ヴェンダースによる3D短編映画《もし建築が話せたら…》は、ここを舞台として撮影された作品である。人格をもった建築がさまざまな人々に語りかける様子は、3D映像による新しい空間体験とともに、人と建築の新しい関係を提示している。 本作は、日本初公開となる。
■ スタジオ・ムンバイ《ワーク・プレイス》
インドは12億人あまりの人口を抱え、ものごとはインフォーマルな形式で進んでいく。お互いの関わり合いや、やりとりを抽出し、共同しながら自分たちの混成物をつくっていく様子を再現した。
■ 石上純也《ガラスのシャボン玉》
9メートル四方の正方形のガラス屋根は、床とのすき間にコンプレッサーで継続的に空気を送風され、 内側からの空気圧により、 気圧を一定に保たれている。しなやかに床の上で風に舞うシャボン玉のようにたわむ姿は、ふとこれが硬質なガラスであることを忘れてしまう。脇には、割れたガラスの残骸が薄氷の破片のように重ねられている。このケーススタディーの痕跡であると石上は言う。
■荒神はるか《コンタクトレンズ》
■ AMID.cero9《ゴールデン・ドーム》
建築の原点には創造性あふれる素材の探求がある。AMID.cero9 による「人々の集まる場」としての仮設の建築《ゴールデン・ドーム》。 宙吊りされているやわらかなドームは、それ自体の自重によって形が構成されている。素材への探求心が感じられる作品だ。 19世紀から20世紀にかけて活動した建築家、アントニオ・ガウディは、コンピューターがないその時代に、いかに効率的に形をつくるか考えた。そのとき、彼は自由落下から計算式を導いたのであった。本作は、ガウディの懸垂曲線による形態や、浮力調整のための穴の検討の結果から導かれており、その探求の過程を、建築と同様に色鮮やかでユニークな形状のいくつもの模型によって紹介している。
■ エル・アナツイ《ガーデン・ウォール》
現代アフリカ美術を代表する彫刻家のエル・アナツイ。ガーナ出身の彼は、ナイジェリアを拠点に活動している。本作品は、回収された身の回りにある廃材をアシスタントたちがつなぎあわせ、アナツイがそれらをひとつのタペストリーとして編み合わせたものだ。 アートの専門知識をもたない者たちとの共同作業の間に、無意識下で行われる手仕事から新しい形が出来上がり、また廃棄されるはずだった素材が見事な空気を生み出した。
「アフリカの非常に現代的な、黙示録的な風景も同時にありながら、それだけでない新しい面というものもあって、観ようによっては暗くも見え明るくも見えるすばらしい作品」と西沢氏は語った。
■ トランスゾーラー+近藤哲雄《クラウドスケープ》
建築とアートは、これから私たちがどのような時代、社会に向かっていくのかを映し出す鏡であり、また同時に、新しい時代を作り出していく重要な手続きでもあると SANAA は語る。私たちをとりまく状況の変化に対して、建築家、アーティストらはどのように応えていくのか。視覚だけでなく、身体や感覚に訴えかける展覧会だ。
*ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展‥‥ 建築展として最高峰の規模と権威をもつ国際大型展。2010年に開催された第12回展では、妹島氏が国際企画展総合ディレクターを、西沢氏と同館チーフキュレーターを務める長谷川祐子氏がアドバイザーを務めた。
TABlogライター:吉岡理恵 富山生まれ。アートプロデューサーのアシスタントを経て、フリーランサー。展覧会企画、ウェブを中心に、エディター、ライターとして活動。他の記事>>