「堕ちるイカロス−失われた展覧会」ライアン・ガンダー展

過去・現在・未来の時空を超えて存在する「展覧会」

poster for Ryan Gander

ライアン・ガンダー 「墜ちるイカロス―失われた展覧会」

銀座、丸の内エリアにある
メゾンエルメスにて
このイベントは終了しました。 - (2011-11-03 - 2012-01-29)

In Main Article 3 レビュー by Rei Kagami 2012-02-13

ライアン・ガンダーは、ロンドンを拠点に活動する1976年生まれのアーティスト。2011年には太宰府天満宮アートプログラム横浜トリエンナーレ2011に参加し、日本でも作品紹介の機会を重ねてきた。
彼は、既存のものや事実に新しい解釈を与え、作品を通して観客との対話を楽しむような作品を制作する。

『失われた展覧会 An exhibitions lost』と題された本展は、21点の作品を通して、美術史における展覧会を再考するというテーマによる展示。
マンチェスター・メトロポリタン大学に通っていた彼は、自分が実際に足を運ぶことができなかった展覧会について、カタログなどでずいぶん勉強したという。そして、彼は、展覧会を実際に見ることよりも、その展示についてどれだけ考えるかが大事だという。

そのようなメッセージが込められた本展は、さまざまなアーティストや作品に言及しながら、それを彼のウィットで再構成した作品により、謎解きをするようなおもしろさで鑑賞者をガンダーの世界に引き込んで行く。

メゾンエルメス8階フォーラム(以下、フォーラム)が開廊10周年を迎えることにちなんで制作されたのが、《これが本当の多様性だなんて誰が言った》(Who said this was true multiplicity anyway)。過去10年間にフォーラムで展覧会を開催したアーティストは30人にのぼる。
2038年、16年後の彼らの想像上の姿を法廷画家に依頼して描いたという肖像画である。床に無造作に置かれた未来の肖像画を見ながら、どれが誰を描いたものか過去を振り返るというパラドックスが楽しい作品だ。

また、《なるほど、確かに?》(In Spades?)は、30面体のサイコロの作品。それぞれの面には、フォーラムで過去に開催された30回分の展覧会一つ一つを象徴する、彼自身が考案した文字や記号が記されている。
 
《観測所、あるいは悪いのはそれではなく、あなたが混乱しているだけ》(The Observatory, or, it’s not that it’s bad, it’s just that you’re confused)は、ドガの踊り子を思わせるブロンズ像が、正面のキューブ状の別作品を指で計測しているかのようなポーズをとった作品だ。美術史の中であまりにもよく知られたブロンズ像が、台座から離脱した姿で別作品と向かい合い、コンテンポラリーアートの一部に組み込まれている。

《観測所、あるいは悪いのはそれではなく、あなたが混乱しているだけ》(The Observatory, or, it’s not that it’s bad, it’s just that you’re confused)

実は、多面体のサイコロにしてもドガの踊り子にしても、彼の過去の作品に登場したことがあるモチーフなのだが、まったく同じではなく展覧会ごとに形を変えて登場する。

《暗闇の匂いがする―(錬金術の箱#26)》(It smells like darkness—(Alchemy Box 26)も、彼が繰り返し制作しているシリーズのひとつだ。毎回、「アルケミー・ボックス」には、その内容物を書いた紙が添付されているのだが、実際に箱を開けて確認することはできない。本当にその内容物が入っているかどうかは永遠に分からないという、なんとも好奇心をかき立てる作品だ。今回の「アルケミー・ボックス」には、フォーラムでこれまでに展示を行ったアーティストたちが選んだ本が入っている、ということで、壁には中に封入されている(とされる)本の一覧リストが貼られている。

《暗闇の匂いがする―(錬金術の箱#26)》(It smells like darkness—(Alchemy Box 26)

《覚えておいて、後で必要になるから》(Remember this, you will need to know it later)は、アーティスト、アストン・アーネスト(Aston Ernest)の死後、スタジオの机を撮影したという写真だ。写真の中には、ガンダー自身の作品を彷彿とさせるモチーフも見受けられるのだが、そもそもアーネストという人物は、彼が作り上げた架空のアーティストなのだ。彼はこのように架空のアーティストを自分の中に作り上げ、シチュエーションを設定して作品に落とし込んでいく。

いくつかの別名を使うことによって多様なスタイルの作品を作ることができると彼は言う。アストン・アーネストは、自身の考える「良い」アーティストとして生み出された人物。それに対して「良くない」アーティストとして、アーネスト(「Aston Ernest」)の名前をアナグラムにし、「Santos Stan」という人物を作り出していくといった調子だ。

鑑賞者は、 一般的な解釈方法を提示せずとも(むしろそのようなものは必要なく)知らず知らずのうちに自分なりの解釈を見つけてしまう。ここでは21点すべて紹介しきれないが、すべての作品が知的な遊び心に満ちた作品で、引用された元の作品や展覧会を知らずとも楽しめるのが、まさに彼の創作の魅力なのだ。

前述のメッセージに通じるが、ガンダーは、作品を観た人がその後どのくらいその作品について思い出し、また考えるかが大切で、その作品の成功の尺度の一つとなると言う。また、「美しいから質の高い作品とは言えない。逆に、嫌悪感を感じるからといって必ずしも質の低い作品ではない」という彼の言葉からは、芸術は美しくなくてはならないという美術の通念への皮肉さえも感じられる(しかし、彼自身の作品は造詣として洗練されている)。
「芸術作品は、人々がその背後の物語を理解するための『乗り物』のようなものでなければならない。」ということが重要なのだ。

《鍵のかかった部屋》(The Locked Room)

Rei Kagami

Rei Kagami. Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour & art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&アートマーケットレポートもやっています。 ≫ 他の記事

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