7月12日より原美術館にて開催中の、「アート・スコープ2012-2014―旅の後(あと)もしくは痕(あと)」の内覧会に参加してきました。アートプログラムのひとつとして世界的に展開・定着しつつあるアーティスト・イン・レジデンス。異国の滞在プログラムを通じて得た、作家たちの「気づき」とは?内覧会で行われたギャラリートークでの内容を含めつつ、今回はその一部をご紹介します!
ダイムラー・ファウンデーション ジャパンの主催する文化・芸術支援活動。日本とドイツ間でアーティストを派遣・招聘し、異文化での生活を体験しながら作品を制作するという滞在プログラム(アーティスト・イン・レジデンス)。2003年より原美術館とパートナーシップを結んでいます。今回は2012年にドイツからリタ・ヘンゼンとベネディクト・パーテンハイマー、2013年には日本から大野智史と今村遼佑、計4名の交換プログラムの成果を踏まえた新作が並ぶ展示となりました。
館内に入ってまず目に飛び込むのは、極彩色で彩られた、大野さんのペインティング。
気候に影響されながら変化する風景に関心があり、東西の美術史を読み込んだうえで、特に温度や湿度といった大気や空気感の表現を模索しました。
《Misty Kilimanjaro》では、ドイツや日本の霧とはまた違う、独特の気候をもつキリマンジャロの熱帯雨林を描いています。ベースとなる風景画の上に多層のレイヤーを重ねることで、湿度や大気の層の表現を試みています。また、狩野永徳やニコニコ動画の画面にみられるレイヤー構造を日本独特の画像論的手法であると考え、参考にしたといいます。
リタさんは自らの制作の基礎にドローイングをおきながら、写真やインスタレーション、立体など幅広く制作しました。滞在中はとにかく自分の足で東京の街を歩き回ったといいます。街歩きの最中や日常生活のふとした瞬間にみつけた「日本的なもの」が、《東京の外》(カラー写真15点)で切り取られています。
日本では馴染みある事物や光景でも、よくみると不思議でシュール。当たり前だと思っていたものが、リタさんの視点から作品として提示されることで、日本らしいモノ・コトを新鮮さをもって再発見することができます。
他にも、ベネディクトさんは原発問題や大量消費といった現代日本を取り巻く状況を静かに観察した写真・映像を出品しています。ストレートでありながら概念的な意味を帯びた、どこか厳かな雰囲気がただよいます。
2階の一番奥の部屋では、今村さんの繊細なインスタレーションや映像作品が並び、私的な時間を感じさせる空間になっていました。
ドイツ滞在時に寝泊まりした部屋の外から見えた雲の流れや、風が木の葉を揺らしたり窓をカタカタと叩くといったささいな光や音。そのような小さな自然現象に自らの心象状況が影響される感覚があったと今村さんはいいます。あえてサイレントで編集した映像作品《風と凪(炭酸水、時計、窓の外)》では、時計とコップの水、そして外の風景が互いの動きに作用しあっています。ここでは時間が止まっているようにも、また動いているようにもみえます。
都会の喧騒から少し離れた場所に位置する原美術館。カーブした回廊や、細かく仕切られた展示部屋が、彼ら4人の作品のリズムをより一層引き立たせていました。4人の旅の後/ 痕をゆっくりと辿ってみてください。旅の余韻に浸りながら中庭のカフェ ダールでお茶をしていくのもオススメです。
また、大野智史さんは同じく7月12日より東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「絵画の在りか」展にも出品しています。こちらも要チェック。
[TABインターン]
吉村真里奈: 西洋近代美術を専攻する学生。美術館やギャラリーを巡るうちに、大学では学ぶことができない「今起こっている」アートに関心をもつようになる。より多くの人にアートを知ってもらいたいという気持ちから編集職を目指す。休日には吉祥寺Art Center Ongoingのお手伝い。好物はグミ。