公開日:2016年7月26日

「西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」フォトレポート

花柄モティーフの世界を知る

ジョエル・ポーベル 《茜色の鹿》(茜色のトワル・ド・ジュイで覆われた狩人のためのおとり) 2010年 ポリエステル・綿 作家蔵 ©Courtesy Joël Paubel

Bunkamuraで7月31日まで開催中の「西洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」にいってきました!

トワル・ド・ジュイとはヴェルサイユ近郊の村、ジュイ=アン=ジョザスの工場で生み出された西洋更紗、「トワル・ド・ジュイ(ジュイの布)」を指します。この展示ではトワル・ド・ジュイが生み出される背景となった田園風景の起源、大量生産を可能にしたインド起源の木綿地である更紗、そして工場で生み出された3万点を超えるテキスタイルのデザインの一部を紹介し、トワル・ド・ジュイの誕生と発展の歴史をなぞります。

《工場の仕事》 J.B.ユエによるデザイン 1783-84年 銅版プリント・綿(ジュイ製)トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy

トワル・ド・ジュイのデザインの特徴は主に左の写真のような2色使いのデザインの布や柄で、人物画や風景画が印象的です。会場に入るとすぐこのトワル・ド・ジュイの柄の鹿が出迎えてくれます。モティーフは田園風景、様々な花などが多く、
● ファッションに興味のある方
● テキスタイルに興味のある方
● 風景画が好きな方
に特におすすめです!

プロローグ:田園モティーフの風景

《狩猟風景が描かれたタピスリー》 1600年頃 MOU蔵(Museum of Oudenaarde and the Flemish Ardennes)、ベルギー

展示はまずヨーロッパのテキスタイルに描かれた田園風景からはじまります。写真はインド更紗が入ってくる前にフランスで伝統的に使われていた羊毛で織り上げたタペストリーです。細部に目を配ると狩猟をしている様子が描かれているのが分かります。15世紀から17世紀にかけてフランドルで作られた通称フレミッシュ・タペストリーのデザインが、トワル・ド・ジュイで扱われるデザインの源となりました。素材こそ違うものの中世に描かれたモチーフと18・19世紀にトワル・ド・ジュイの工場で生み出されたプリントの共通点が伺えます。

第1章 インド更紗への熱狂

17世紀後半以降に東インド会社によってもたらされたインド更紗は、第一部の田園モティーフとは違いエキゾチックな花や動物が特徴的です。写真のプリントではインドで作られたプリントで金箔が用いられているのが見受けられます。会場内にはインド更紗で作られた着物や、茶道具を入れる袋である仕服などが展示してあり、日本でも普及していた様子が伺えます。

更紗家製下着 19世紀前半(製: ヨーロッパ、他) / 19世紀後半から20世紀初頭(仕立て: 日本) 綿、個人蔵

第2章:トワル・ド・ジュイの工場設立

爆発的な更紗の流行が絹やウールなどの伝統的なテキスタイルの生産者の怒りを買い、フランスでは更紗の製作と綿の輸入だけではなく、1686年から着用すらも禁止され、フランスでの更紗の流通は一時途絶えました。
結果として隣国のイギリスやドイツでは更紗製作の技術が発達したのに対してフランスでは技術が育たず、フランスへ膨大な量の更紗が密輸入されたとも言われています。
約70年後の1759年、フランスはインド更紗の禁止令を廃止し、自国デザインの更紗を作り始めました。そこで、ドイツ出身のプリント技師、オーベルカンプは1760年にヴェルサイユ近くのジュイ=アン=ジョザスの地に自らの小さな捺染工場を設立しました。これがのちに最も成功した西洋更紗となる、トワル・ド・ジュイの工場の始まりでした。

第3章 木版プリントに咲いた花々

《グッド・ハーブス》 18世紀末~19世紀初頭 木版プリント・綿(ジュイ製) トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy

実際に使用された版木
実際に使用された版木
版木 制作年不詳 木版層、真鍮 トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy

トワル・ド・ジュイの工場では主に木版プリントと銅版プリントの2種類の技術が用いられ、初期は木版プリント、後に銅版プリントが用いられました。木判は比較的小さいため、大きな版木を必要とする風景画よりも、何度も同じ模様を繰り返す事が出来る花模様や唐草模様が主なモティーフとなりました。木版プリントは銅版プリントと比べると比較的平面的ですが、多色刷りしやすく色鮮やかなテキスタイルが特徴的です。
木版プリントによるテキスタイルは、インド更紗のエッセンスを引き継ぐエキゾチックで様式化されたデザインから始まり、次第にフランス流の花模様に発展し3万種を超えるデザインが生み出されました。モチーフはバラ、リボン、鳥など多岐に及び、インド更紗とは趣の異なるフランス流のデザインが展開しました。

木版プリント展示風景
木版プリント展示風景
様々な柄の鮮やかなプリントがずらりと並ぶ

第4章 銅版プリントに広がる田園風景

1770年からオーベルカンプは銅版を用いた技術を採用します。銅版は木版とくらべて非常に細い線を彫ることができ、陰影や奥行きを生み出し、人物画や風景画などのプリントを可能にしました。また木版との違いとして、デザインサイズが非常に大きく、銅版プリントのデザインは一枚の絵画のようなスケールへと発展しました。しかし銅版には消耗しやすいという欠点があり、従来の多色刷りではなく使用回数を減らし長持ちさせるため単色刷りが主に採用されました。
このような背景から下の写真のように現在トワル・ド・ジュイとしてよく知られる人物を配した風景を単一の色調で染め上げるプリントが生産されました。

《お城の庭》 J.B.ユエによるデザイン 1785年 銅版プリント・綿(ジュイ製) トワル・ド・ジュイ美術館蔵 ©Courtesy Musée de la Toile de Jouy

このパターンはカップやソーサー、靴などの展示品だけでなく会場内のベンチにまで使われていました!

会場内 ベンチ

ミュージアムショップも充実しており、様々な柄のグッズだけでなく布も買うことができます。来場者の方々も楽しげにお土産を選んでいました。

ミュージアムショップ

膨大な種類の花柄モティーフが展示されていて圧巻でした!また一口に花柄といっても歴史や地域間交流を反映して変遷していく様子が分かりおもしろい展示でした。ミューぽんを利用すれば入場料がおトクです。みなさんぜひ足をお運びください!

公式ホームページ http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/16_toiledejouy/

[TABインターン] Atsuko: 1996年生まれ 大学で学芸員過程を取得中。服飾、テキスタイル現代美術に関心があるがTABを通して興味範囲を広げたいです。服づくりとプラモデルがマイブーム。

TABインターン

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学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。