座談会 – ミレニアル世代のアーティスト達

初音ミクへの信仰、植物との対話、プリミティブなモノの見方の実践とは。彼らの思考プロセスに迫る。

In 特集記事 by TABインターン 2016-12-08

ミレニアル世代は、1980~2000年頃に生まれ、デジタルネイティブとも呼ばれる。その世代で現在注目されつつある国内若手アーティストは、ポストインターネット的な手法・表現や、コミュニティとしての活動などが特徴として多く見られるように思う。他方で、インターネット的な感覚とは真逆である「身体性」や「現場性」といったキーワードが同世代の作り手の中で出てきている。ミレニアル世代が扱うそれらの感覚は、生々しいアプローチを持ってしながら表出してくるものは軽やかで、後味爽やかだ。
そういった視点から、美術系大学に在籍し自身も制作活動を行っている筆者が気になる、同年代のアーティスト達を紹介したい。多摩美術大学絵画科油画専攻4年生の飯島暉子さん、同じく長尾郁明さん、東京芸術大学技法材料研究室修士1年生の日下部岳さん、「原始的宇宙人」のひろぽん。この4人に座談会形式でそれぞれの制作活動とそのスタンスについて話してもらった。

左から、長尾郁明さん、ひろぽん、日下部岳さん、飯島暉子さん

飯島: 私は特に素材を決めていなくて、その時々によって既製品や写真、映像などを含めたインスタレーションを作って発表しています。≪ACTH≫は植物に涙を与えて育てた作品。「ACTH」というのはストレスを外に出すホルモンで、マイナスな感情で流す涙にのみ含まれているそうです。私の涙が植物にどういう作用を与えるのか、反作用的に向こうが何かアプローチを返してくれるのか。植物と関係を結ぶことを試みています。
≪wipe the dust≫は、ラジカセの上に積もったホコリを指で拭いた痕跡が見えます。これは立体作品として発表しました。印刷物でフラットですけど、直接貼ることで壁に対して少し厚みが出る。そこに三次元性を見出だしています。

飯島暉子さんーーじゃあこれは写真作品ではなくて彫刻作品なんですね。
飯島: そうですね、三次元作品というか。ある作家さんが、「紙の上に鉛筆で線を引くということは、絵を描くようだけど、紙に対して鉛筆の芯がのっている立体作品でもある」ということを言っていて、それが自分の制作のことを考える上ですごくマッチして。平面的な印刷用紙を三次元的に捉え直す上で参考になりました。
ーーそのホコリを指で拭うという行為も、彫刻的な感覚で。
飯島: ホコリは積っても目に見えないくらいの厚みだけど、それを指で減らすことでそこに確かに窪みができる。それは三次元的な行為だなと思って。
あまり派手なものとかスケールの大きなものは作っていません。誰でもできるくらいの軽さが欲しくて。


日下部: 自分は絵を描いています。これは≪田口≫というペインティング作品で、金属顔料のみで描いてます。面相筆でとにかく同じ作業をえんえんと続けた結果、田口になる。滅私して、主体は作品にあってほしいという考えでやっていました。

ーーこれはマスキングを使ってないんですね。フリーハンドで描くのにはこだわりがあるんですか。
日下部: 時間をかけたくて。こんなに手間をかけても結局田口にしかならないのになあ、という無意味な時間を過ごしたかった。
長尾: 時間なんですね。ステラのブラックペインティングとかも、フリーハンドというか、引いたとこのキワがモソモソしてるんですよね。すごくそれが意味あるなと自分では思ってて。これもちょっとマスキングでは描いてないなというのが分かって、見る側としてはだいぶ感じるものがある。線を引くというよりは、線を描くという感じ?
日下部: そうですね。 

ーーどれくらい時間かかってるんですか?
日下部: 半年ですね。1日14時間くらい。

最近作っているのは、拾ってきた石を粉砕して顔料にして、その石を絵に再現するということをしています。別に僕は石が好きとかではなくて、石的なるものを信仰したいんです。つまり初音ミクですね。石的なるもの=初音ミクです。
ーー初音ミクで石。
日下部: 初音ミクと石を描いています。
ーー初音ミクでは描かないの。
日下部: 初音ミクの顔料があれば一番良いんですけど、無いので。光とかになっちゃう。初音ミクのフィギュアとかだと、あれはまたややこしくなるかな。

飯島: バイオアーティストユニットのBCL初音ミクの展示を金沢21世紀美術館でやってたよね。初音ミクのデータをパソコン上で採取して、人間の心筋細胞に近いものを作っていた。今の話を聞いて、何によって初音ミクを描くのかというのはすごく大事なのかなと思った。
日下部: 初音ミク的なるものと石的なるものって自分の中で近いので。絶対的受動性を獲得しているという点で、この世界にとってピュアな存在だ、と思って。全然うまく言えないですけど。まだ途上なので。

日下部岳さん

長尾郁明さん
長尾: 今作ってるのが1m×1mの写真作品。これは液晶モニターにアダルトビデオを映して、モザイクがかかった女性器をマクロレンズで接写したものを編集せずにそのまま引き延ばして透明のフィルムに印刷しています。それを後ろからLEDで光らせている。シリーズになっていて、これは≪JAPORN No.2≫、≪JAPORN No.4≫というタイトルですね。ジャポルノというのは、日本のポルノを紹介するときに使われる言葉。日本のポルノはモザイクがかかっているというのが特徴なんです。
画面がモザイクと液晶の粒の両方のグリッドによって構成されています。四角形とかグリッドというのは人間がものごとを合理的に統御するためのシステムのように感じていて。すごく理性的なイメージですよね。でもそういう四角形の使われ方に対して、自分はアダルトビデオという、作られ方も消費のされ方も身体的で非理性的なもので作ろうと思って。そうすることによって、グリッドに対する考え方を変えたいと思っています。

展示風景

長尾: ≪2015.05.01 (Fri)≫という作品は、2015年5月1日の0時0分から次の0時0分が来るまでのデジタル時計の写真1441枚がグリッド状に並んでいます。1分間に一度、シャッターを切る行為を24時間続けるという、写真作品なんですけど身体パフォーマンス的な要素もあります。
ーーじゃあこれはタイマーではなくて手動で。
長尾: そう。全部00秒でシャッターを押すというルールなんですが、1秒ずれていたり、大きくずれているものは40秒くらいずれてます。でもミスってもそのまま続けるということにしてて。そのミスしているところに自分の身体の存在が現れる。グリッドの中に自分の身体を落とし込むという考え方でやっています。アダルトビデオの場合も、グリッドと身体。両極端なものが同時に存在してる画面を作りたい。

ひろぽん: ひろぽんって呼んでください。ひろぽんです。
長尾: 「ひろぽん」という名前で活動してる?
ひろぽん: 活動というか、ひろぽんとして生きてる。「ひろぽんって呼んでね。」ってこと。
長尾: わかりました(笑)呼ばせて頂きます。
ひろぽん: えーと、プリミティブアーツマスターを目指して活動をしています。(ということにしてる。)芸術家ってよく作品を作るけど、僕は芸術活動をしてるだけだから作品は作ってない。あと、好きな色は青。好きな食べ物は、肉と草だね。脂質代謝になりたいの。要するに何が言いたいかっていうと原始人になりたい。原始人はまねっこじゃないじゃん、火を作った時。そういう原始的な創造に立ち会うべきだと思ってて、だから僕も火を発明しないといけない。
長尾: 火ってもう発明されてるじゃないですか。
ひろぽん: 自分の中で原始人になって、知らない体でやらないといけない。混沌と秩序を行ったり来たりしたいの。

飯島: イヤホンがワイヤレスなのがさっきから気になって。
長尾: ハイテクですね、原始人なのに。
ひろぽん: 機動力重視だから。
あとは四足歩行の練習をしたり、ダンス部作って教えたりしてる。
飯島: コンテンポラリーダンス?
ひろぽん: ああそれもう本当いちばん嫌い。オリジナルダンスって呼んでる。オリジナルってプリミティブじゃん。全ての筋肉とか関節を無秩序に動かして、呼吸もランダムにするっていうのを今は教えてる。これマジできつくて、段階がいくつかあるんだけど、レベル10でやると多分30秒以内に死ぬ。

ひろぽん

長尾: 暗黒舞踏とかとは違うんですか。
ひろぽん: そうそう。土方巽は、みんながものすごくゆっくり歩いたら世界に革命が起きるとか言ってるのね。僕も立つという行為について考えていて、「立てなくなる病気」を作って普及する活動をしてる。やっぱり自分の細胞とか遺伝子とかに立たされてるんだなと思っちゃう。あと立ってないと変な人だと思われるという社会的要因から。そういうものを全部崩壊させると、立てない病気になれる。今日も日暮里駅で立てなくなっちゃった。
立てなくてすごくハッピー。立つという言葉の意味が解体されるから。そうすると生きてる上で秩序的な世界から脱却できるじゃん。

日下部: 発表に興味はないの。
ひろぽん: 僕は修行的な感じでやってるから。活動が日常の中にあるし、別に発表して非日常にする必要はない。芸術的な修行なのかな。
日下部: そういう側面もある。自分としても発表と制作は切り離してます、たぶん。修行でありたいっていう。
ーーみんなわりと修行っぽいですよね。
長尾: あ、僕は修行じゃないです。修行っぽいかもしれないけど。やりたいやりたくないではなくて、自分であれを考えたから、やるってだけ。自分をモルモットとしてやらせています。

日下部さん「多摩川で拾ってます。」
ーー制作にはみなさんどのくらいお金かかっていますか。
飯島: 今までは誰でも出来るようなラフさが重要で、お金をかけないように抑えていたんですけど、最近は実験的に素材を変えたり増やしたりしていて、けっこうお金がかかり始めました。
日下部: 顔料代が最近かからなくなりました。
みんな: 石。
ひろぽん: すばらしい。
長尾: あのライトボックス一つ作るのに9万円くらい。次のクレジット支払いがヤバくて。今必死にバイトを入れてます。
ひろぽん: 僕はほぼ0円。活動のためにわざわざ買うものはないかな。

ーー作品の売り買いに関してはどうですか。
長尾: ナイーブな話だね。だって売ったことがないから何も話せない。
飯島: 今までそういう金銭的なやりとりについてあまり考えたことがなかった。私の場合は売るとしたら指示書が重要になるかな。
ひろぽん: 作品を買った人に命令できるの?指示書って。
飯島: 展示の仕方についての指示がね。
ひろぽん: 例えば作品を涙で育ててくださいって指示をしたら、買った人は毎日そういう行為をしなきゃいけなくなるってことじゃないの。
飯島: そういう作品もあると思います。
ひろぽん: それはすごくよいなと思った。

ーー売らないとアーティストは別のことでお金を稼いで生活しなきゃいけないわけじゃないですか。そこのとこがいつも気になる。みんな売買についてはあまり考えないんですか。
ひろぽん: 岡本太郎は絵を売ってないじゃん。贈り物でしょ。彼は本を執筆して稼いでいた。作品を売るってなったときに、この人に売りたくないなって時にもお金さえ払われれば売っちゃうみたいなのがあるじゃん。そういうのが嫌だから。岡本太郎の絵は好きじゃないけど、そういうところいいなと思う。
日下部: 売れるもんなら売りたいですけどね。
長尾: 僕は売る売らない関係なしに、発表し続けたいです。

ひろぽん「やっぱり指反る系のひとだ。」長尾「母親のマッサージをしすぎて。5歳くらいの時に」

ひろぽん: ベンチの話したっけ?してないよね。
今コンタクトを片方してないから、コスモスの世界とカオスの世界があって、両目で見るとそれらが混じってるの。その状態でベンチを見ると、歪んで世界に溶け出してる。そうすると全てベンチだし、全てベンチじゃない。
長尾: あ~、ベンチとベンチじゃないものの境がなくなる。
ひろぽん: だから今みんな一体化してるよ。遊戯王カードってわかりますか。フィールド魔法ってあるじゃん。いま長尾くんのカードを手に入れたのね。長尾フィールドってやると、このペットボトルとかも長尾くんだし、全部長尾くんだし全部長尾くんじゃないっていう状態になる。こういうことをベンチですると、全部ベンチ化する。だから立てなくなっても、ベンチに座ってる感覚だからまあ普通みたいな状態を保てる。

日下部: あれを思い出した。ここからここまでが私って判断してる脳の領野があるんだけど、たまたまそこだけ破壊された脳科学者の手記。ここからここまでが私ってことがないから、世界に溶け合って、水になった感覚って書いてて。全部が私って感じる。すごい幸福感らしい。
ひろぽん: ああもうその人はずっとそんな感覚なんだ。僕もそこを一回破壊してみたい。
日下部: 宇宙に滞在してるときは酸素のある宇宙服の内部でしか生きられなくて、そこから外が外界っていう認識でいたひとが地球に帰ってきたら全部宇宙服の中の状態だから、そうなれるんじゃないかっていう仮説を養老孟司が立ててた。

ひろぽん: ベンチフィールド、みんなに今日教えたからやってほしい。全部ベンチなんだからどこでも座れるんだよ。すばらしくない?「あ、疲れたから座りたいな」と思って道路に座ったら、星がすごい見えて綺麗!ってなったもん。すごい良いよ。
飯島: なんか今日不思議な話ばっかり(笑)

     
ーーみなさん今日はお互いに話をしてきてどうでしたか。
長尾: 自分は作品を作るときに、両極端なものを同時に存在させることで未分化な状態にしようという考えもあって。だからひろぽんさんが言うプリミティブについてこだわっていることとか、けっこう気になります。既成概念から解放された状態でものを認識するということに。
ひろぽん: 眼鏡外すのがいちばん良いんじゃないの。
長尾: いや、ぼやけるとかそういうわけではなくて。
日下部君も、自分ではなく絵画のほうに主体を置くことで、人間の視点から解放されようとしてるのでは。それはある意味でプリミティブな感覚の獲得を目指しているのかな。そういう試みって昔から美術史の中で行われてきたことだと思うんですけど、もう一度やると何か違うんじゃないかなと思います。

多摩美術大学アートテークにて

飯島暉子
1994年生まれ。多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻4年生。参加したグループ展に、「トーキョーワンダーウォール公募2015」(東京都現代美術館)、「TAMABI select-1-」(多摩美術大学アートテーク)。

日下部岳
1993生まれ。東京藝術大学技法材料研究室修士1年生。

長尾郁明
1991年生まれ。多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻4年生。参加したグループ展に、「Video is meeting」(Art space Kaikas’)、「SUPER OPEN STUDIO 2015」(TANA STUDIO)、「Workstation.Group Show:Summer Dream」(Workstation.)、「TAMABI select -1-”」(多摩美術大学アートテーク)、「SUPER OPEN STUDIO 2016」(TANA STUDIO)。

ひろぽん
17歳の女の子。趣味はおしゃべり。

撮影: 松川眞央

[TABインターン] 大重千尋: 1992年生まれ。岡山県出身。油画専攻。テーマソングは『ハンドインマイポケット』。就職活動中です。

TABインターン

TABインターン. 学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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