公開日:2018年6月22日

崩壊と再生を繰り返す波は人生の象徴でもある。NYダウンタウンカルチャーの先駆者、SABIOインタビュー

展示はディーゼルアートギャラリーにて8月23日(木)まで開催

NYを拠点に20年以上活動を続け、世界のグラフィティムーブメントの重要人物の一人であるアーティスト、SABIO(サビオ)の日本初となる展示「WAVES IN BLOOM」が渋谷のディーゼルアートギャラリーで開催されている。
マルチメディアアーティストとして活躍するSABIOの作品は、ペインティング、写真、映像、音楽、ウェアラブルアートなど多岐にわたる。しかし、そのすべては共通して抽象的でアンビエントな感触を纏い、我々の感性の深部へと訴えかけてくる。
また、今回の展示では、ヒップホップグループRATKINGのWiki(ウィキ)、スケートボーダーのYaje Popson(ヤヘ・ポップソン)、SupremeからアルバムリリースしたコンテンポラリージャズトリオのOnyx Collective(オニキス・コレクティブ)など、NYダウンタウンの新しいムーブメントを代表するアーティスト、ミュージシャン、スケートボーダーたちの日常もうかがい知ることができる。
今回、作品の背景や多様な表現方法について、SABIO本人に話を訊いた。

Photo: Reiko Touyama

水についての思索が雨を降らせた

ーーまず、今回の展示のタイトル、「WAVES IN BLOOM」の意味について教えてもらえますか。

今回のプロジェクトは新しい始まりなんだ。波というのは水であり、海のことだ。人間の身体は水でできているし、人間は水の中で生まれる。波(=Waves)は岸に打ち寄せ、何度も崩れては再生して打ち寄せてくる。人生と同じように。

ーー今回の展示の目玉でもある大型のペインティングは、NYのスタジオの屋上で雨の中制作されたと聞きました。あえて雨の日を選んだのでしょうか。

良い質問だね。実は、最初から雨の日に制作しようと考えていたわけじゃない。最初の作品に取り掛かった時は晴れていた。僕は水のことを考えながら屋上でペインティングを始めたんだ。そして「水、水、水……」とつぶやいていたら、突然雨が降ってきたんだよ! それまで晴れていたのに、僕がペインティングを始めたら雨が降ってきた。わかるかい、つまり僕が雨を降らせたんだよ! あれはとても象徴的な出来事だった。

ーーSABIOの作品からは、自然が持つ偶然性を積極的に表現に取り込んでいるような印象を受けます。

もちろん。僕は自然を尊敬しているし、太陽をもっとも崇拝しているんだ。太陽がないと何も生まれないからね。
だから時間やルールに厳しい社会は自分には合わない。「時間って何?」と言いたくなるね。アーティストはルールを破壊するために存在しているんだ。ルールにとらわれていると、アートはクリエイトできないと思う。

Photo: Xin Tahara

一つのインスピレーションから多様なメディアへ

ーー普段、作品のインスピレーションはどのようにして得ているのですか。

インスピレーションは自分の内面から浮き上がってくるものだ。そして外へと出ていく。目で見たもの、感じたもの、すべてがインスピレーションの元なんだ。インスピレーションはどこにもある。この部屋も、インタビュアーの君もそうだ。(スタッフの足元を指さして)ほら、彼女の靴を見て! すごく可愛い。あれもインスピレーションだね。

ーー今回の展示では、ペインティング以外にも映像、写真、アパレルなど、さまざまなメディアで作品を制作しています。それぞれのメディアをどのように使い分けているのですか。

また良い質問だね!メディアが違うだけで、すべては同じインスピレーションが元にあるんだ。ただし、どのようなメディアで表現するかは自分が決めているわけじゃない。アートそのものから、どのように表現したら良いか語りかけてきてくれる。ペインティングは写真であり、写真はアパレルであり、アパレルは映像でもある…。つまり全部がつながっているんだ。

Photo: Reiko Touyama

ーーラッパーのWikiや、スケーターのYaje Popson、ジャズトリオのOnyx Collectiveなどの写真が展示されています。彼らとの関係性は?

一緒にスケートしたり、食事したり…。いわゆる友達だよ。ダウンタウンカルチャーは全部つながっているんだ。僕の前のスタジオは、ダウンタウンの中でも溜まり場みたいな場所で、いろんな人たちが来ていたね。ミュージシャンもスケーターもアーティストもいた。

旅から得られるインスピレーション

ーー今回の展示で、新しい取り組みだったことはありますか。

ペインティングは完全に新しい方法だったし、自分で音楽を作ったのも初めてだった。

ーーアフリカ、ヨーロッパの旅から受けたインスピレーションを元に、iPhoneで制作したという音楽ですね。どんな旅でしたか。

4ヶ月ほどかけてスペインやモロッコ、ポルトガル、フランスを回った。僕は常に何か作っていないと駄目な性分で、飛行機のトランジット中に作るものがなくて、iPhoneで音楽を作り始めたんだ。

Photo: Reiko Touyama

ーー旅に出ることは多いですか。SABIOにとって旅とは何ですか。

本当に頻繁に旅に行くよ。常に世界を旅している。旅は、僕にとってメインのインスピレーション元でもある。
僕は6ヶ国語を話すマルチカルチャーの家庭で育ったんだけど、旅は家族のことを思い出させる。旅に出ると、新しい感覚や表現を発見することもできる。それに、旅をすると新しい自分になれるんだ。普段は、僕はこういう人だと、みんなに知られている。だけど旅先では、誰も知らないまったく新しい自分になることもできるんだ。

SABIO
SABIO
Photo: Xin Tahara

ーーSABIOが多様な表現形態を取る背景には、マルチカルチャーの家庭で育ったというバックグラウンドも関わっていますか。

鋭いね! もちろんその通りだよ。

ーー20年以上NYを拠点に活動していますが、SABIOにとってNYはどのような街でしょうか。

NYには世界のすべてがある。アート、音楽、ファッション……すべてのカルチャーが集まる世界の中心だね。東京とはまったく違う場所で、強い者しか生き残れない、という厳しさもある。
だけどここ最近、NYも変わってきている。特に経済面での変化が大きいね。家賃も上がってきている。さらに、大きなホテルやチェーンレストランができて、ローカルなカルチャーがなくなりつつあるのも残念だよ。

ーー最後に、日本の観客に向けてメッセージをいただけますか。

日本は、今まで僕が暮らしてきた場所とはまったく違って、とてもエキサイティングだよ。僕にとってはオーガナイズされすぎているかもしれないけど、本当に美しくて、多くの発見がある。僕は日本を愛しているよ。愛とアートが世界をもっと良い場所にするんだ!

(text:玉田光史郎 Koushiro Tamada)

Koushiro Tamada

Koushiro Tamada

玉田光史郎。熊本県生まれ。ファッション/カルチャー系の出版社に勤務後、広告の制作ディレクターを経て、2014年よりフリーランスのライター/ディレクターとして活動。趣味は園芸とクライミング。