人間らしさをどのように表現するのか。横浜ダンスコレクション2019

ダンスの枠組みを拡げていく横浜ダンスコレクション2019オープニング公演レビュー。当日券もあり

In レビュー by oboko 2019-02-15

横浜ダンスコレクションは横浜赤レンガ倉庫を中心に、ダンサー・振付家のコンペティションだけでなく、国内外の挑戦的なダンス作品の公演や展示、ワークショップと多様なプログラムを提供するダンス・フェスティバルだ。コンテンポラリーダンスの最前線を追いかけ、24回目の開催を迎える。今年の公演プログラムは「人間中心的」な作品が多い印象だ。

どのような表現で人間世界を描写し得るか
2月3日まで開催していたオープニング・プログラム『futuristic space』は、イスラエル出身のエラ・ホチルド振付・演出による作品だった。「死、狂気、喜び、競争心、嘆き、好奇心、模倣、絶望、憧れ、悲しみ、不安、恐れ、どの社会にも存在するこれらの要素が合わさり、作品のイメージとして立ち現われる」(公演パンフレット文より)というこの作品の主軸は人間であり、人間の営みの描写である。作品の中では、ダンサーの男と女、日本人と外国人といった要素も積極的に利用した場面も見られた。急に日本人ダンサーが、舞台裏で談笑しているような「朝、何食べた?」という会話を始めるが、次の瞬間にそれはピタリと止み、次の身体表現に移行したりする。受容と軽蔑といった相反するような感情表現が、交互に突然切り替わりながら進んでいく物語構成が印象的だった。それは例えば2年前の横浜ダンスコレクション2017のダミアン・ジャレ|名和晃平『VESSEL yokohama』のように、振付の人間的要素を排除した作品の対極にある。

音楽はホチルドと共に来日したイスラエルを拠点に活動するゲルション・ヴァイセルフィレルで、メインは中東のマンダリンのような楽器ウードの演奏による。ウードといってもエレキウードを使い、パーカッションシンセサイザーも使用して、自在にループや音質を変え豊かな曲を奏でた。舞台美術は大巻伸嗣。送風機で布を浮遊させる作品「リミナル・エアー」をステージいっぱいに展開し、送風機の強弱と布にあたる照明光の揺らぎにより見え方が異なる効果が最大限に発揮され、時には巨大な燃え盛る太陽のように見えたりさえした

『futuristic space』のワンシーンより。ダンサーは大宮大奨、笹本龍史、鈴木竜、湯浅永麻、ミハル・サイファンの5人は、それぞれ多様な活動のバックグラウンドを持つ

前年度の振付家新人最優秀賞・永野百合子による『MONOLITH』は、セリフも多用した演劇に近い作品だった。永野はパフォーマンス集団「妖怪大図鑑」を主宰する。物語やセリフの反復を利用した構成や、楽曲にJポップを使うのは、演出家・演劇作家の多田淳之介の作品からの影響が感じられた。ダンスの挿入の仕方や振付はNHK教育テレビの番組のようで、懐かしさもあったが、国内で共有し得るような家族の「典型的」な会話やシチュエーションは、海外からどのようにみられるのか、という点が気になった。さらに、物語性が強くなるとダンスをする必然性に疑問が出てくる。物語とダンスの動きと楽曲が分離し、危なっかしい関係を結んでいるようであった。

『MONOLITH』のワンシーン。ちゃぶ台を囲む家族のイメージはとても日本的だ

ダンス表現の枠組みを広げていくために
身体ひとつで表現するダンスは人間の原始より備わった自由に満ちた表現のように思える。しかし、今ダンスと呼ばれるものは、長い時間(歴史)を経て、宗教的な舞踊はもちろん、バレエ、ヒップホップ、ジャズ、またはその他多くの細分化されたジャンルごとに、それぞれの音楽、それぞれの基本的なステップ、動きや体の使い方が形式化されてきた。その形式の中でどれだけ神秘的なのか、美しいのか、または難易度が高い身体の使い方なのかという点がダンス作品を鑑賞する際の注目どころのひとつだろう。

コンテンポラリーダンス・フェスティバルやコンペティションは、ジャンルを超えた多様なダンス表現を評価し、紹介していく機会として重要な役割を担う。ジャンルごとに固定化された音楽や動きや見せ方を解体し、新たに融合したり、美術や演劇の要素も取り込む。

ソロ作品だが、息を呑むような身体表現を見せたスペイン出身のチェイ・フラドの舞台より。ストリートダンスのバトルで何度も優秀した経歴を持つチェイのダンスには、ブレイクダンスの要素も多く、独特な表現を生み出す

観光に訪れた人も巻き込む野外パフォーマンス公演も毎年の恒例だ

まだまだ見どころたくさん横浜ダンスコレクション2019
最終日の2月17日まで、公演や展示は続く。
マイム(日常動作の模倣)をベースにしたカンパニーデラシネラは、人間模様を描くセリフもある演劇的な作品で、過去に『ドン・キホーテ』や『椿姫』などを上演している。今回は、新作『見立てる』で日本文化を扱う。

カンパニーデラシネラ『見立てる』振付・演出:小野寺修二

ダンスクロスプログラムでは赤レンガ倉庫の広いホールで迫力ある2つのソロ作品公演がある。フランス出身のナッシュと、オープニング作品にダンサーと出演していた鈴木竜のパフォーマンスは、それぞれ全く異なる世界観を体験することができそうだ。また、今年の展示はダンスと映像記録の可能性を探る企画だ。舞踏家の大野一雄の姿を描くインスタレーションで、ステージで見るのとは少し異なる視点からダンサーを見ることができる。

■開催概要
横浜ダンスコレクション2019 「METHOD/SPACE/PRESENCE」
2019年1月31日(木)~2月17日(日)
横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜にぎわい座 野毛シャーレ他
http://yokohama-dance-collection.jp/
*当日券の情報などは公式Twitterまたはウェブサイトを確認してください。

■カンパニーデラシネラ『見立てる』(世界初演)
日時:2月16日(土)13:00、18:00、2月17日(日)13:00
会場:横浜にぎわい座 のげシャーレ
チケット:前売:3500円、当日:4000円、U-25:3000円、高校生以下:1500円

■ダンスクロス
ナッシュ 『セル』 (日本初演)
鈴木竜『AFTER RUST』(日本初演)
日時:2月16日(土)15:00、2月17日(日)15:00
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
チケット:前売:3500円、当日:4000円、U-25:3000円、高校生以下:1500円

■展覧会 国際ダンス映画祭 『身体が残る。』
1月31日(木)〜2月17日(日)
13:00〜20:00(平日)、11:00〜20:00(土日祝)
※最終日は17:00まで
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館2FスペースA
入場無料

■展覧会 ON VIEW : Japan『Portraits of Dance Artists』
スー・ヒーリー映像インスタレーション
2月16日(土)14:00〜20:00、2月17日(日) 11:00〜17:00
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館2FスペースC
入場無料

oboko

oboko. 1988年生まれ。「いま・ここ」に生まれてくるサイト・スペシフィックな作品に特に興味がある。アートコレクター初心者。展示企画・翻訳などもします。 ≫ 他の記事

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