公開日:2020年2月8日

「第12回恵比寿映像祭」の見どころをレポート。17の国と地域・95名の作品で「時間を想像する」

15日間にわたって展示、上映、ライヴ・イベント、トーク・セッションなどが複合的に行われる映像とアートの国際フェスティバル「恵比寿映像祭」が今年も開幕。その見どころをレポートする。

2月7日から15日間にわたり、東京都写真美術館全館および恵比寿各所で行われる「恵比寿映像祭」が今年もついに開幕。12回目の今回は、「時間を想像する」をテーマに、展示、上映、ライヴ・イベント、トーク・セッションなど多彩なプログラムが行われる。

「映像を通して、身近で抽象的な“時間”の本質を考えてほしい」と話すのは、本祭ディレクターで東京都写真美術館学芸員の田坂博子。企画にあたっては「新しいドキュメンタリー」「時間を表現する」「Imaginary Time(虚時間)」の3つのキーワードを軸にアイデアを展開させたという。

参加作家・ゲスト数は総勢78組95名、作品数は73点にのぼる映像祭の見どころをレポートする。

minim++《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》(2001)。道具に触れると、道具の影が動きだす

新作を発表するのはこの6組
本祭にて新作を発表しているのは、高谷史郎、時里充、多和田有希、三原聡一郎、シュウゾウ・アズチ・ガリバー、小森はるか+瀬尾夏美の6組。

東日本大震災をきっかけに、東北を拠点に活動する小森はるか+瀬尾夏美。ふたりは、2031年の岩手県陸前高田市を舞台に瀬尾が描いた物語『二重のまち』を起点とした新作展示インスタレーション《二重のまち/四つの旅のうた》(2020)を発表している。「いま被災地では、 かさ上げ(山を切り崩して宅地を造成し、残土を沿岸近くの低地に運び整備された市街地)の上での生活が始まっています。そこで被災者の方々は“語る”ことから“生活を営む”というフェーズに移った。今回は、震災当時に子どもだった4人を集め、震災を語り直していくというプロセスをつくり、同時代の継承のはじまりを試みました」と、瀬尾は話す。

小森はるか+瀬尾夏美《二重のまち/四つの旅のうた》(2020)の展示風景
高谷史郎の新作委嘱作品《Toposcan/Tokyo》(2020)。会場は日仏会館ギャラリー

高谷史郎の新作《Toposcan/Tokyo》(2020)は、カメラを水平に回転、撮影した風景が、8台の連結されたモニターを横切るように映し出される作品。先頭の1ピクセル分の映像が引き伸ばされ、織物を思わせるストライプが表れるのに対し、移動する映像の最後部は縦1ピクセルずつ静止画へと変化するというもの。「日本を撮影することはほとんどなかった」と言う高谷が、映像祭のために撮り下ろした東京の風景。人間の空間的認識を超えた風景の時間はその場で体感してほしい。

時里充「見た目カウント」シリーズの新作は、館内の2ヶ所で展示されている
三原聡一郎の新作《8分17秒》(2020)

時里充は、モニターの中の人々が行う「エクササイズ」が、モニターの外に設置された電磁カウンターに影響を与え、数値が視覚化される「見た目カウント」シリーズの新作。多和田有希は、レイヤー状に写真を重ね合わせた「Shadow Dance」シリーズの新作。

三原聡一郎は、光の時間を多層に表現した砂時計《8分17秒》(2020)を出品している。今回の映像祭のメインビジュアルにも作品が使用されているシュウゾウ・アズチ・ガリバーは、量子論に関連した新作映像作品《I am also Quantum》(2020)をはじめ、過去作「De-time」シリーズドローイング、アーカイヴ資料など、時間に関する作品群を展示中だ。

左に見えるのが、シュウゾウ・アズチ・ガリバーの新作映像作品《I am also Quantum》(2020)

宇宙、ニュートリノ、過去と未来
美術館内で常時上映される映像作品からは、さまざまに「時間」が見えてくる。例えば、スタン・ダグラスの《ドッペルゲンガー》(2019)は、理論物理学の現象で、離れた場所に存在する粒子同士が同期して振る舞う「量子もつれ」がモチーフ。ある場所では帰還者であり、他方では侵略者という「ありえたかもしれない世界」を映す、SF映画を思わせる作品だ。

メルス・ファン・ズトフェンは、実験エラーにより「光より速い」と誤って報じられた素粒子ニュートリノに着想を得た《光速》(2018)を発表。実験が行われたスイスの欧州原子核研究機構(CERN)からイタリアのグランサッソ国立研究所まで、作家自身が12日間をかけ旅した軌跡を映像化。「写真技術との類似を作品から見てほしい」とファン・ズトフェンは話す。

ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニ《移動の自由》(2017)

ドキュメンタリーとフィクションを横断し、独自の映像世界を築いてきたニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニは、1960年のローマオリンピックでサハラ以南のアフリカ人初の金メダルを獲得したアベベ・ビキラの軌跡を追う三面スクリーンの《移動の自由》(2017)を出品。エル・ザニは、「未来のための作品をつくりました。なぜなら、歴史を反芻することが未来につながるからです。いま、ヨーロッパでもファシズム的な傾向が見られますが、それに立ち向かうためにも過去を振り返りたいです」と語った。

星進一、小松左京、石原藤夫……往年のSF小説ファンには嬉しい、イラストレーター・真鍋博の作品コーナーも。ここでは、真鍋が表紙イラストを手がけた作品ほか、アニメーション作品『時間』(1963)を上映。SF作家・都筑道夫の原案をイメージ化した本作は、高橋悠治が音楽を担当している。

アニメーション作品『時間』の横に展示された、真鍋博のイラストレーション

人間以外の「動物の時間」を体験したいなら、ベン・リヴァースの《いま、ついに!》(2019)を。実験映像作家のリヴァースが16ミリフィルムで撮影し、40分間におよぶ本作は、木にぶら下がるナマケモノの姿が白黒からカラーへとじょじょに移り変わる。そして作品後半、「時間はゆっくりと流れる」という歌詞の有名曲をBGMに、カメラの視線はナマケモノへの視線へ……。コスタリカで撮影された本作は、床にあるビーズクッションのソファで横になり時間を忘れて鑑賞してほしい作品だ。

ベン・リヴァース《いま、ついに!》(2019)。床にはビーズクッションのソファが

ジャパンプレミアも多数。上映プログラムに注目
美術館の1Fホールでは、実験映像や劇映画、ドキュメンタリー、アニメーションなど多彩なプログラムを上映。小森はるかが、陸前高田災害FMでラジオ・パーソナリティーを約3年半務めた阿部裕美を追ったドキュメンタリー映画『空に聞く』、強烈な映像と音響を組み合わせ、独自の寓話的世界を作品化してきた映像作家・遠藤麻衣子による、2020年オリンピック・パラリンピックを控えた東京を舞台としたSF映画『TOKYO TELEPATH 2020』。長編監督デビュー作『KUICHISAN』、実験的な作品を数多く発表してきたイギリス出身のベン・リヴァースと、劇映画の実践の中でリアリズムを追求してきたタイ出身のスウィーチャーゴーンポンの初の共同監督作品《クラビ、2562》など、ジャパンプレミアも多数含むラインナップとなっている。チケット情報や関連トークなどは公式サイトをチェックのうえ、足を運んでほしい。

360度全方位の映像体験
日本の夏の風物詩である花火を、季節を超えて、まるで星空を見上げるように鑑賞する。『ハナビリウム』は、江戸時代から400年以上をかけて積み重ねられてきた花火の歴史と技術を伝えるフルドーム教育映像作品だ。おすすめの鑑賞方法は、床に点在するソファに寝そべって見るスタイル。花火師以外は見ることのできない「花火の真下」からの鑑賞を、臨場感をもって楽しむことができる。

『ハナビリウム』(2019)では、花火を真下から眺めるような鑑賞体験を得ることができる
恵比寿ガーデンプレイス内に設置された『ハナビリウム』の屋外ドーム

このほかにもガイドツアー、トーク&ワークショップ、地域連携プログラムなど、盛りだくさんの15日間。公式サイトを参照のうえ、気になるプログラムへの参加をおすすめしたい。

■第12回恵比寿映像祭「時間を想像する」
日程:2020年2月7日~2月23日(月曜日休館)
会場:東京都写真美術館、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほか
時間:10:00〜20:00(最終日は18:00まで)
URL:https://www.yebizo.com/jp/
入場料:入場無料(※定員制のプログラムは有料)
協力:TAIRA MASAKO PRESS OFFICE

出品アーティスト・ゲスト(一部)

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

Editor in Chief