公開日:2020年10月23日

コマーシャル・ギャラリーとは異なる活動体として。「CADAN:現代美術」トークイベント レポート(4)

2015年に設立された一般社団法人日本現代美術商協会(CADAN)が初の展覧会を2月15日、16日に開催。本展の関連イベントとして行われたトークイベントをレポートでお届けする。第4回のテーマは「キュレートリアル・アーティスト・コレクティブ」。

日本の現代アートの振興と普及を主な目的に、2015年に設立された一般社団法人日本現代美術商協会(CADAN: Contemporary Art Dealers Association Nippon)。38のギャラリーが参加するこの「CADAN」が、現代アートを純粋に見てもらうという原点に立ち返る、初の展覧会「CADAN:現代美術」を2月15日、16日にわたって開催した。本展の関連イベントとして行われたトークイベント全4回をレポートでお届けする。

第1回:現代アートの新しいプラットフォームとは?
第2回:僕らの芸術時代 アラウンド80’s
第3回:アート・コレクションとその思考

最終回となる第4回のテーマは、「キュレートリアル・アーティスト・コレクティブ」。近年東京では、アーティスト・ラン・スペース、キュレーションに特化したアートスペースなど、従来のコマーシャル・ギャラリーとは異なる形態のスペースが増えている。そうしたスペースは、どういった目的でどのような活動をしているのか? 各スペースの概要とともに、座談会の様子をお届けする。登壇者は磯谷博史(アーティスト、元statements 共同ディレクター)、大坂紘一郎(キュレーター、ASAKUSAディレクター)、COBRA(アーティスト、XYZ Collectiveディレクター)、高見澤ゆう(アーティスト、4649 ディレクター)の4名。モデレーターはインディペンデント・キュレーターの兼平彦太郎。

中野浩二の作品。「CADAN:現代美術」XYZ Collectiveのブースより

4649(高見澤ゆう)
http://4-6-4-9.jp/
・4649はアーティスト・ラン・スペース。2018年にスタート
・「自分たちが作品を発表する場所がない」という思いをきっかけに、海外のアーティストたちが自分たちのスペースを持つ様子を見て、アーティストの高見澤ゆう、清水将吾、小林優平が共同運営を開始
・拠点は、高円寺を経て現在は巣鴨(XYZ collectiveと同スペース)
・国外のアーティストとはInstagramやアートフェアをきっかけに交流を開始。アレックス・マッキン・ドラン、ジャスパー・スペセーロら、高見澤がもともと好きだったアーティストから「4649で展示をやりたい」と偶然連絡があり展示を行う、またMx Gallery(ニューヨーク)にて4649が企画展示を行うなど、海外との交流は頻繁に展開

statements(磯谷博史)
・statementsはプロジェクトスペース。2016〜18年の2年間限定で活動
・磯谷博史(アーティスト)のほか、の山根一晃(アーティスト)、柴田とし(ギャラリスト、キュレーター)、兼平彦太郎(キュレーター)が共同で運営した
・現代のアーティストと美術史の接続を示し、国内で積極的に紹介されていなかったアーティストを紹介することが目的
・展覧会だけではなく、ワークショップ形式の「トレッドソン・ヴィラ・マウンテンスクール2016」のほか、展覧会を通してジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダの書籍をつくるプロジェクト、突発的なイベントなど、過程や展示後の批評なども含めたフレキシブルな企画を展開した

半田真規「トーキョーパレス」展(statements、2017)の様子

ASAKUSA(大坂紘一郎)
https://www.asakusa-o.com/
・ASAKUSAはキュラトリアルスペース。2015年にスタート
・公的な文化施設では展示できないような表現も紹介し、オルタナティブとしての活動を目指す
・不動産サイトで安価な物件を探し、40平米の一般住宅をDIYで改築
・大坂はSCAI THE BATHHOUSEの活動に携わりながらASAKUSAの活動も継続している
・2018年からはおもに助成金(アーツカウンシル東京)を得て作家を日本に招聘し、作品制作から展覧会まで一連の流れをサポートするプログラムを展開

ミン・ウォン「偽娘恥辱 部屋」(asakusa、2019)で行われたパフォーマンスの様子

XYZ collective(COBRA)
http://xyzcollective.org/
・XYZ collectiveはアーティスト・ラン・スペース。2011年にスタート
・拠点は、世田谷区弦巻を経て2016年より巣鴨へ
・弦巻では、約130平米の元倉庫を安価で借り活動。設立当初は、COBRAに加え松原ソウシロウ(アーティスト)、服部円(編集者)の3人体制で運営していた
・これまでの企画に、東日本大震災後、世界約200名がFAXでメッセージを寄せた「FAXINATION JAPAN」(2011)、アーティストの竹崎和征と五月女哲平が企画したグループ展「囚われ、脱獄 / Imprisoned, Jailbreak」(2016)など
・NADA Miami、Paris Internationaleをはじめ世界各地のアートフェアに参加

兼平:今回の4組に共通していると思うのは、本来であれば公共の美術館や機関が行うべきことを、各スペースでオルタナティブな方法で示していること。そして、アーティスト同志のネットワークに加え、InstagramなどのSNS生かした2010年代的な軽やかなつながり方にあると思います。

COBRA:4649はニューヨークのMx Galleryとどのようにつながったんですか?

高見澤:2018年にNADA MiamiのProjects Section(新進ギャラリーが集まる小さなブース)に参加したことがきっかけです。参加する前は緊張していたのですが、実際に行ってみたらたくさんの人がブースに来てくれて、日本よりも展示に反応してくれるので嬉しかった。滞在時にはチャイナタウンでばったりアーティストに遭遇したりと、知り合いができるスピードが速かったです。

礒谷:アートフェア参加は、海外とのネットワーキングという観点から参加している面も大きいのでしょうか?

COBRA:XYZの場合は、2段階の目標がありました。まずは、フェアに参加し、東京の若いアーティストを紹介すること。NADA Miamiに初めて参加したときは正直「売れないだろう」と思っていたけど、意外とたくさんのかたが来てくれて、横のつながりができてきました。じつは当初、XYZは2年くらいで閉じるつもりだったのですが、あっという間に時間が経って、「アーティスト・ラン・スペースで長く続いているところはあまりないからがんばろう」と。そのために販売に力を入れたのが2段階目でした。先輩のギャラリストに協力してもらい、コレクターさんとどう話すか、フェアのブースでどう対応するか、請求書の書き方まで、ビデオで撮影して復習していました。

兼平:先日、「The New York Times」に「Artist-Run Galleries Defy the Mega-Dealer Trend in Los Angeles(アーティスト・ラン・スペースがメガディーラーのトレンドを覆す)」という記事が出ていました。この記事によると、従来のフェアはコマーシャル・ギャラリーの独壇場だったけど、アーティスト・ラン・スペースの台頭によって、コマーシャル・ギャラリーは教育セクションを展開するなど売り方を変化せざるを得ない状態になっている、と。コマーシャル・ギャラリー一強の時代ではないということは、一部のコレクターさんたちは早くから気づいていると思います。

左から高見澤ゆう、磯谷博史

アーティストとギャラリーの活動について

礒谷:近代美術を見ればわかるように、本来、アーティストは自分自身でイズムやステートメントを主体的に掲げていました。その後にキュレーターや批評家が出現して、アーティストは専業的に作品をつくるスタイルに移行したと思う。僕はstatementsに関わったとき、「アーティストがスペースを通してステートメントを掲げる」といった、本来的なアーティストのあり方、つまり自分自身をおさらいするような気持ちで参加した側面がありました。みなさんはスペースの活動を通してアーティストとしてのご自身に具体的なフィードバックはありますか?

高見澤:スペース運営とアーティスト活動の両立は大変なことしかないですね。ネガティブな意味ではなく、まわりで誰もやらなかったからやっただけだけで、スペース運営にもっと向いている人はたくさんいると思う。でも、磯谷さんが言うように、昔のアーティストはみんなこういう兼業的な活動をしてたのかなとも思います。

COBRA:たしかに大変だけど、この時世、アーティストは「作品力」だけでなく、作家として社会とどう接するか、どう仕事をするかといった「作家力」が必要な気がしています。スペースをひとりで運営するとそれが自然と身に着くので、試しにやってみるのはおすすめします。

兼平:僕から見ると、COBRAさんは出来過ぎてると思います。日本のアーティスト・ラン・スペースでは初めて海外のフェアに出展し、助成金にアプライし、展覧会前にはコレクターにプライスリストを送り……。僕としてはそれを頼もしく眺めながらも、COBRAさんがどこかのコマーシャル・ギャラリーに所属し、アーティスト活動に専念できたらいいなとも思っています。

左から兼平彦太郎、COBRA、大坂紘一郎(Skype参加)

スペースを継続していくこと、助成金

COBRA:大坂さんは、コマーシャルとは異なる方向でスペースを運営していますよね。作品を売ることについてはどのようにお考えなのでしょうか?

大坂:ASAKUSAは販売を前提に始めたわけではないんです。例えば、ここ10〜20年、アーティストの「制作」はスタジオの外に飛び出しリサーチやアーカイブなど多様になりましたが、そうしたリサーチや移動の時間を担保できるのは、大きな展覧会や国際展のみ。コマーシャル・ギャラリーは対応できていないその「担保」を、自分のスペースでも行いたいと思いました。また、国内外から東京に人を呼び、積極的に人のネットワークをつくることは美術館にできないことでもあると思いました。3月末から開催される「温泉大作戦」もそうですが、アーティストを招致し、つながりをつくることはオルタナティブ・スペースが率先してすべきだと思うんです。

COBRA:そうは言っても運営資金も助成金の数も限られていますよね。先細りにならないですか?

大坂:難しいながらも継続させていくのがキュレーターやオーガナイザーの仕事だと思っています。まぁ実際困ってますが(笑)、でもそれはあらゆる場所に共通する課題ですよね。なお、ASAKUSAでは助成金を受けるのは来年までと考えています。助成金は自律するための一時的な助けであり、同じスペース、プロジェクト、人が取り続けるのはよくないから。さらに、スペースというのはその町、そのシーン、その時間と意見交換をするために存在し、役目がなくなることもあると思う。だから、スペースをむやみに継続するよりは、終わるときには潔く終わるのがいいと思います。

質疑応答(1):高見澤さんに質問です。さきほど「アーティストが展示する場所がないから自分でスペースを始めた」と言っていましたが、やろうと思ったきっかけ、うまくいくと思った理由を教えてください。

高見澤:大学生のころ、先生たちは大きなギャラリーに所属して作品を発表していましたが、それは日本の経済が順調なころの遠い話に思えました。自分は既存の大きなギャラリーで展示をするイメージがまったくわかず無関係に思えたので、うまくいくとは思っていないけどやっています。

質疑応答(2):みなさんにとってのコマーシャル・ギャラリーはどのような位置づけですか? 物足りなさを感じていませんか?

COBRA:日本のギャラリーに物足りなさは感じてないです。アーティストというのは同年代のコマーシャル・ギャラリーの人と働いて、一緒に成長するのが理想的だと思うし、僕も本当はギャラリーに所属したい。強いて言うならば、ギャラリストにもアーティスト的思考が必要だと思います。ただ作品をブースに並べるだけじゃ見栄えがしないし、プログラムにオリジナリティが必要なのではないでしょうか。

礒谷:コマーシャル・ギャラリーには、作家にお金を還元する仕組みを発明してほしいと期待しています。それはアプリやデジタルメディアといった大げさなものではなく、もっと素朴に、イベントと展示をパッケージで販売するにするなどの方法論も考えられると思います。いま、音楽業界はサブスクリプションが主流になり、ミュージシャンはライブに力を入れていますよね。そんなふうに、売買の形式はアートでも多様になっていいのではないでしょうか。

兼平:コマーシャル・ギャラリーがあったから、今日の登壇者のみなさんの活動も生まれてきたと思うし、両方あるから豊かなのだと思います。今後は、コマーシャル・ギャラリーとアーティスト・ラン、それぞれのネットワークを生かした協働的なプログラムを世界に打ち出してほしいです。

大坂:僕も各スペースが応答しあって全体のシーンはできあがっていくと思います。そのいっぽうで、コマーシャル・ギャラリーは、例えば「作品が売れた際の取り分は50パーセント」でいいのかなど、作家との取り決めやこれまでの慣習を考え直していくフェーズにあるのではないかと思います。

第1回:現代アートの新しいプラットフォームとは?
第2回:僕らの芸術時代 アラウンド80’s
第3回:アート・コレクションとその思考

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

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