原美術館のフィナーレを飾る展覧会:「光―呼吸 時をすくう5人」展をレポート

原美術館最後の展覧会。今井智己、城戸保、佐藤時啓、佐藤雅晴、リー・キットが参加する「光―呼吸 時をすくう5人」展をレポート

poster for Time Flows: Reflections by 5 Artists

「光―呼吸 時をすくう5人」

東京:その他エリアにある
原美術館(東京)にて
37日後終了

In Main Article 2 フォトレポート by Art Beat News 2020-09-19

1979年より人々に親しまれてきた原美術館が、建物の老朽化にともない41年の歴史に幕を閉じる。その歴史の最後を飾る展覧会「光―呼吸 時をすくう5人」が9月19日にスタートする。日時指定の予約制で、会期は9月19日〜2021年1月11日。

展覧会のステートメントには、本展の企画趣旨について次のように書かれている。「手に余る世界の情勢に翻弄され、日々のささやかな出来事や感情を記憶する間もなく過ぎ去ってしまいそうな2020年。慌ただしさの中で視界から外れてしまうものに眼差しを注ぎ、心に留め置くことはできないか」。本展にはその言葉の通り、見過してしまいそうなほど些細な日々の光景をそれぞれの目線で掬い取るような作品が並んでいる。

参加作家は今井智己、城戸保、佐藤時啓、佐藤雅晴、リー・キットの5名で、そのうち今回新作を発表しているのが、今井智己、城戸保、佐藤時啓。

この記事では、新作から順にレポート形式で展示をたどっていく。

今井智己は1974年広島県生まれ。本展では、福島第一原発から30km圏内の数カ所の山頂より原発建屋の方向にカメラを向けた「Semicircle Law」(2012-)に、原美術館から同方角を捉えた新作と初期作品を展示している。展示室に並ぶ24枚の「Semicircle Law」シリーズは、それらが並ぶ壁も原発建屋の方角に設置されており、鑑賞者は原発建屋に向かって体と視線を向けるように自然に促される。床の木目の方向にもある秘密があるため、展示室を訪れた際にはぜひ注目してほしい。

当初は4月開幕だった本展だが、新型コロナウイルスの影響で5ヶ月遅れでの開幕となった。しかしそれによって、「桜や雪の風景などの四季のめぐりを映像作品映像作品《Semicircle Law 2011-2020》に収めることができた。だから結果的によかったです」と今井は話す。《Semicircle Law 2011-2020》では、雪の中での原美術館の様子も収められている。

城戸保は1974年三重県生まれ。「突然の無意味」と本人が表現する、何気ない日常風景の中で本来の役割や用途からズレた「もの」を捉え、「見る事やある事の不思議」を考察。写真の構造にも関心をもち、色や光による構図の追求や技術的実験を試みてきたアーティストだ。本展では、ゆるやかな曲線が印象的な美術館の廊下から展示室まで、さまざまな場所に城戸の写真作品が展示され、そのどれもが日常の何気ない1シーンが被写体となっている。

城戸は作品について次のように話す。「現実をそのまま捉えることには興味がなく、名前や意味を取り払って写真化します。写真だけど絵の要素が強く、写真の速写性を利用して絵を描くイメージです」。写真の加工は色とコントラストの調整のみ。《テント倉庫》《何かの光》《顔と手》といった個々のタイトルを通して作品の注目ポイントを知ることもできる。

城戸は写真の構造にも関心をもち、色や光による構図の追求や技術的実験を試みているアーティストだが、1980年代よりそうした実験と表現を追求してきたアーティストが佐藤時啓だ。展覧会タイトルにも使用されている佐藤の代表作「光―呼吸」は、長時間露光を駆使し、風景の中をペンライトや鏡を持って歩き回り、光と自身の移動の軌跡をフィルムに定着させるシリーズ。本展では、原美術館と、2021年より原美術館ARCと改称して活動を続けていくハラ ミュージアム アークをモチーフに、デジタルカメラを用いた新たな「光―呼吸」を展示している。「長時間露光によるドローイング作品を制作するのは約20年ぶり。昔と同じ機材を使っても仕方がないので新しい機材を試してみました」と佐藤は振り返る。

原美術館を収めた新作に費やした撮影時間は約3時間。写真を撮影することは自身の行為性を認識する作業であり、呼吸を確認しながら光を動かしていくのだという。

コレクションからは、リー・キットと佐藤雅晴の作品が選ばれている。制作する土地や展示空間の声を聞きながら日用品と絵画・映像を組み合わせる詩的な作品に、社会や政治への問題意識も内包させるリーは、本展では人工光と展示室に差し込む自然光を用いた静謐なインスタレーション《Flowers》(2018)を展示。インスタレーションの片隅には「Selection of flowers or branches(花か枝かの選択)」という一文が静かに掲げられる。

いっぽう佐藤雅晴は、五輪へと向かう東京の姿を撮影しトレースした《東京尾行》(2016)を展示。実写とアニメが折り重なる本作は、微かな差異が虚実の曖昧な新たな視覚体験を見る者にもたらす。当時、病と向き合いながら本作を制作した佐藤。展示室内で自動演奏されるドビュッシーの「月光」は、そのわずかな揺らぎやミスタッチによって、演奏家の演奏を忠実にトレースしていることに気づくだろう。

本展をもって41年の歴史に幕を下ろす原美術館だが、本展は各鑑賞者の原美術館での思い出や個人的な記憶に寄り添うような、フィナーレにぴったりの展覧会と言える。これまで同館を訪れたことがない方も、ぜひこれを機に美術館での体験を記憶に残してほしい。

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