山根英房の新作『you are out of you』は、水平方向に広がる淡い色彩の写真作品を中心として構成されるインスタレーションです。一見すると、写真作品は、水平方向に過度に引き伸ばしたか、グラフィックソフトで水平方向にエフェクトをかけたかのように見えます。実は、その画像は、カメラを360度回転させて撮影したもので、言うなれば、カメラが立脚するポイントを取り囲み、そこに収束してくる光を捉えたものです。この、空間上の一転を包囲する光と言う構図は、認知科学などによる再評価が始まるまで、徹底的に無視され続けてきた異端の視覚理論、J・J・ギブソンの『生態学的視覚理論』を想起させます。そこから眺めやる視界に存在する対象が成立要件となる視覚ではなく、視線を送るものがただ存在するだけで成立する視覚。ギブソンの視覚理論を利用した作品で知られるJ・タレルとは異なるスタンスで、山根はそれにアプローチしています。『you are out of you』を構成するもうひとつの要素は音響作品です。ある地点の照度を記録したデータから生成される音響は、山根がギブソン的な意識を持っていることを裏づけます。
山根は、初個展となった前作『36.2144688_139.728478』以来、「場所」というものの在り方を問い続けています。大学で建築を専攻していた山根にとって、写真を中心とした表現を行う際に、「場所」という問題は避けては通れないものなのかもしれません。今回の『you are out of you』でも、結局は自身の建っている場所が、自身の外部の諸要素によって決定されると言う、マッハ主義的な視点での場所性の捉え直しが行われています。わたしたちは、わたしたち以外の要素によって決定付けられている。一見するとミニマルな山根の水平方向に広がる光景の前で、わたしたちはわたしたち自身の存在の仕方を凝視めることになります。