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[画像: Lee Bae Landscape, 2003. Charcoal on canvas. 89 x 116 cm | 35 1/16 x 45 11/16 inch. Courtesy of the artist and Perrotin.]

LEE BAE 「THE SUBLIME CHARCOAL LIGHT - 崇高な炭と光 -」

ギャラリーペロタン東京
終了しました

アーティスト

LEE BAE
ペロタン東京はこのたび、フランス・パリと韓国・ソウルを拠点に活動する韓国人アーティスト、リー・ベー(李英培)の個展を開催いたします。リー・ベーは“炭のアーティスト”として知られ、30年にわたり炭が持つ多様な側面や性質を探求してきました。そのモノクロマチックな実験的作品により、リーは“ポスト単色画”アーティストとも称されています。本展はパリ(2018年)、ニューヨーク(2019年)に続く、ペロタンでの3回目の個展となります。
リーがパリのローカルショップで偶然見つけたバーベキュー用炭は、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』(原題:“À larecherche du temps perdu”)でいうところの“マドレーヌ”のようなものです。当時パリ在住であったリーにとって、炭は故郷・チョンド(清道)の民俗儀礼「タルチッテウギ」(※どんど焼きに似た火祭り)を想起させるものであり、古い記憶を呼び覚ましました。タルチッテウギでは旧暦上最初の満月の夜、“月の家”がこしらえられ、人々の願いが煙に乗って空へと届くよう、火がつけられます。“月の家”が炭になると人々はその欠片を持ち帰り、様々な用途に使用します。この炭は、その神聖さから、食べ物に入れると解毒作用があり、玄関に吊るせば新生児を守るといわれています。リーはこうした伝統をもとに、炭と月光(余白)を作品の題材として扱っています。
今回、ペロタン東京に展示される《Landscape》には、黒いモチーフ(アクリルメディウムで固定した炭粉の塊)を縁まで押し出す、大胆な余白が表現されています。シャルル・ボードレールの詩「風景(Landscape)」(原題:“Paysage”/1857年)の一節、「石炭の煙の川が天空に立ちのぼり、そして月が、その蒼ざめた魅惑の光を注ぐのを私は見るだろう」(1)は、リーの同題の作品をまさに暗示する描写だといえます。リーの《Landscape》において、モチーフと余白が接する縁を考察すると、その硬く重いモチーフが余白に衝突すると同時に崩壊していくことに気づきます。軽さと重さ、存在と不在、表現と表現不可、“月の家”と月光、快楽と苦痛がそれぞれ対峙するとき、崇高さは火花のようにめらめらと燃え上がります。炭は火によって生み出され、一方でいつまでも火を起こし続け、また火(光、空虚)に回帰するのです。
《Issu du feu》では、炭の欠片ひとつひとつが、まるでゴシック様式の大聖教のステンドグラスのように異なる光を反射します。リーはキャンバス上に炭の欠片を密着、結束させ、表面を磨き上げることで、この漆黒の物質が光を反射するようにしています。鑑賞者の目が慣れると、暗順応したときのように、作品の繊細なディテールを見いだすことができるでしょう。リーの作品にみられる光の百科事典のようなスペクトルは、長い年月をかけて自然が生み出した無数の木目や年輪の賜物です。時間とともに蓄積された年輪は、作品に遊び心ある光との交わりをもたらしています。
ペロタン東京に展示されるアクリルメディウムの作品は、一見すると複数層の円を無造作に絵の具で描いたように見えます。しかし、同モチーフを熟視すると、それは滲んでいるようにも、浮いているようにも見えるのです。この芸術的手法は、余白に関するオルタナティブな概念との新鮮な出会いを引き起こすでしょう。具体的には、リーは炭粉とメディウムを混ぜてモチーフ(円)を描き、乾燥後に同じモチーフの層を重ね、さらに同様の工程を数回繰り返します。メディウムによる透明の層に散りばめられた反復するモチーフとモチーフの間には、広く理解されている平行方向の空白(二次元の表面において、何も描かれていないスペース)に加えて、垂直方向の空白がみてとれます。この余白から作られた隙間には、科学革命によって失われた“崇高さ”が潜んでいます。陰と陽や物質と現象の境界のはざまや、永遠にシニフィアン(記号表現)のもとに隠れるシニフィエ(記号内容)との隔たりに、人類最古の記憶の断片の一つである“崇高さ”が染み透っているのです。
本展タイトルである“the sublime charcoal light”(崇高な炭の光)とは、つまり、炭(“月の家”)と余白(月光)から成っています。鑑賞者はキャンバス上に描かれ、創られた炭に注目する傾向がありますが、リーの作品はまた同時に、常に月明かりを照り返しているのです。東アジア美術における「烘雲托月(ばいうんたくげつ)」、言い換えれば「月の周囲に雲を描くことで、月をあらわす」技法では、空白や余白によって月や月光を表現するように、ここでいう月光とは、すなわち余白なのです。リーの作品にはこれらの二要素(《Issu du feu》では炭と光、他のペインティングでは炭と余白)が常に共存し、相互作用しています。これまで、“月光”は展示スペースによって異なり、ペロタン・パリ(2018年)では近代都市の明かり、ペロタン・ニューヨーク(2019年)では空虚で神秘的な側面をみせてきました。次は、東京の月明かりのもとを歩むのです。
シム ウンログ(美術評論家)

スケジュール

2020年7月3日(金)〜2020年8月29日(土)

開館情報

時間
11:0019:00
休館日
月曜日、日曜日、祝日
備考
事前予約制(詳細は公式HPをご確認ください)、開館時間 12:00〜17:00
入場料無料
会場ギャラリーペロタン東京
住所〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F
アクセス都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅1a・1b出口より徒歩1分
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