黒田は1944年に京都で生まれ、1970年に渡仏。1978年にミロやジャコメッティを扱うマーグギャラリーとの専属契約を結んだのち、1980年にはパリ国際ビエンナーレに参加するなど海外で頭角を示していきます。1993年には逆輸入される形で、東京国立近代美術館にて当時最年少で個展を開催しました。その後、1995年にはサンパウロ・ビエンナーレへ日本代表として参加し、2005年にはリヨン・ビエンナーレに参加するなど、世界各地で個展や国際展を通して発表していきます。そして、黒田は絵画という表現媒体の枠を超え、安藤忠雄やリチャード・ロジースといった建築家とのコラボレーション、TOKYO DOME CITY HALLやMAUBOUSSINフラグショップのアートワーク、哲学者のジャック・デリダなどが寄稿した美術文芸誌「ノワズ」や美術誌「コスミッシモ」の創刊、ロシアバレエの傑作「バラード」のパリ・オペラ座公演の舞台美術を担当するなど、多岐にわたる活動を行なってきました。
今回のANB Tokyoでの展示では、2000年以降の作品を中心に展覧会を行うと共に、世界の文化人が集った20世紀後半からフランスに渡り、ミシェル・フーコーやヴィム・ベンダースといった著名人たちと交流を深めていった黒田の活動を紹介して行きます。1980年にパリで開かれた黒田の個展に、小説家で映画監督のマルグリット・デュラスがおくったエッセイから本展タイトルは取られています。「沈黙の先をいく(Kuroda est en avance sur le silence)」は、半世紀近く前の言葉ですが、先の見えない今日にも響く言葉です。黒田自身や多くの批評家によって、深淵と混沌を示す闇や宇宙、神話、世界の様相を眺めるパサージュ(通路)、破壊をもたらすサイクロンや嵐といった言葉と共に、読み深められてきたその表現は、沈黙と混迷の時代を生きる私たちにむけた思索の時を与えてくれます。