コモロ諸島は、今回の展⽰作品《Jardin next door》に出てくるようなバナナや椰⼦の⽊が⾄る所に⽣い茂る美しい島で、その光景を⾃⾝の絵画の背景に取り込みながらイブラヒムは制作をしています。絵画の中の登場⼈物は、旅⾏中やふとした時に⾃⾝で撮影した、今はコモロ諸島で離れて暮らす家族や友⼈など、⾝近な存在の⼈々。これらのアーカイヴ写真に、⾃⾝の記憶や時に想像を交えて絵画を描くことで、誰もが持つ故郷へのノスタルジー、普遍的な家族への愛情やコミュニティの絆を表現しています。例えば《MP3 Files》に登場するイブラヒムの従兄弟が携帯電話を使⽤していますが、海を越え遠く離れて暮らす家族との唯⼀の⼤切な連絡⼿段である、モバイル機器に対する⼤⼩問わず誰にも起き得る愛着や中毒性を表象しています。本展のメイン作品《Better late than never》のタイトルには、「さようならを⾔うのに遅すぎることはない」という意味が込められています。この作品は、イブラヒムの叔⽗が、病気で亡くなる⺟に別れを告げに、故郷より遠く離れた地から彼にとって⼤切な「サバンナ」であるコモロに帰ってきたところを描いたものです。叔⽗は⺟の最期を看取ることは出来ませんでした。しかし、本作のタイトルは、たとえどんなに離れていても駆けつけようとするその気持ちや⾏為こそが重要であるというイブラヒムのメッセージを伝えます。かすかな笑みを浮かべ、表情を隠すようにサングラスをかけた彼は、「これから起こることは私が何とかするから⼼配しないで」と⼒と⾃信を振り絞って⺟に語りかけているかのようです。