私は、初めて訪れたニューヨーク近代美術館(MoMA)で、フェリックス・ゴンザレス=トレスの《Untitled》(Death by Gun)に出会いました。展示室の床にぶっきらぼうに紙が積まれているのですが、なにかと思って近付いてみると、その紙には銃による殺人の被害者たちが印刷されていました。しばらく作品と対峙していると、驚くことに、何人かの観客がその紙を持ち去っていきました。英語にもアートにも不慣れだった当時の私は、その光景に大きな衝撃を受けました。そして、ドキドキしながらも、一枚そっと持ち帰りました。
そのとき手に入れた印刷物が、もう一枚あります。帰り際にミュージアムショップで購入した、パブロ・ピカソの《アヴィニョンの娘たち》のポスターです。現在、その二枚の印刷物は仲良く実家の棚に並んでいます。
無料で持ち帰った「作品(の一部)」と、お金を払って手に入れた絵画作品の「ポスター」の間には、確かに違いがあります。しかし、どちらも私と作品を結ぶ、思い出深い印刷物であることには変わりありません。