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[画像: 松田麗香 《そこにある それもまた 127》 岩顔料、雲肌麻紙、パネル 130.3×194.0 cm 2020-21 photo: Kei Okano]

「project N 82 松田麗香」

東京オペラシティ アートギャラリー
終了しました

アーティスト

松田麗香
※東京オペラシティアートギャラリーは、安全のための措置を充分に講じたうえ、6月1日[火]より再開し、「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」「project N 82 松田麗香」の会期最終日を6月20日[日]から6月24日[木]に延長します。また、6月中の月曜日(7日、14日、21日)はお客様の来館分散のため臨時開館といたします(会期中の休館日はございません)。

一見、部分的にグラデーションのあるモノクロームの画面のように見える。ほとんど同じ色に見えても明暗や色調が微妙に異なる垂直方向のラインがある。色層が幾層にも積み重なることで、画面にはどこかしら荘厳な雰囲気と静謐な佇まいを帯びているのがわかる。

色彩について言えば、暖色系、寒色系いずれのものも存在する。明度の高いピンクやイエローのものもあれば、滋味のある落ち着いた濃緑や紺色のものもある。もっとも、明るい色彩がもちいられた作品でもけっして派手という印象はなく、また、逆に抑制の効いた地味な色合いの作品でも、だからと言って陰鬱な印象を受けることはない。色彩にはかなり幅があるものの、作品が醸し出す雰囲気や気配はいずれもどこか神秘的で、神々しくさえ感じられる。

初期にはモノクロームに限らず、赤、緑、青など、全く異なる色が同一画面にもちいられ、それらが層をなすようにして画面が構成される作品も少なくなかった。最近の作品では、一つの作品にもちいられる色数はかなり限定されている。

画面から感得される一種の荘厳さはむやみに画面に近づくことを躊躇わせるようなところすらあるが、あえて近づいて仔細に画面を眺めると、たんに同系色で塗り重ねられたように見える画面は、おびただしい数の円環(リング)を描き連ねることで成り立っているのがわかる。実際、その制作方法はいたってシンプルかつ規則的で、円環を画面の上から下に丹念に根気強く描き続けるのだという。

松田麗香は、こうした作品制作を2007年以来続けているが、初期の作品では、円環の連鎖は今よりもはっきりと認めることができた。縦に連なる2つの円環は無限大を意味する記号(∞)のようにも見える。それがさらに無数に連なることで鎖(チェーン)のようにも見えるほか、また、見方によっては、カーテンか簾(すだれ)のようにも見える。果たしてそのカーテンの背後には何があるのだろうか。鑑賞者の視線はそうした好奇心にかられるはずだ。

一連の作品は、《そこにある それもまた》と命名されている。より正確に言えば、「そこにある それもまた」の後に数字(現在は3桁)が付けられたものが個々の作品名になっている。ところで、「そこにある それもまた」とは、いったいどう意味なのだろうか。難解な単語は全く使われていないものの、だからこそと言うべきなのだろうか、このタイトルはきわめて含意に富んでいる。いったい何が「そこにある」のだろうか。「それ」という代名詞が果たして何を指し、「そこ」とはどの場所を意味するのだろうか。

単純な単語の組合せながら、「そこにある それもまた」という言葉は、此岸と彼岸、知覚と認識、存在と非在、孤独と集団など、形而上学的な問題を提起してやまない。難しいことを抜きにして言えば、世界の森羅万象が一枚一枚の絵のなかに凝縮されて表現されていると言ってよいだろう。

実在する世界のありのままの姿や隠された真実を表現するとき、絵画はしばしば窓や鏡に喩えられることがある。だが、松田麗香の絵画は、窓とも鏡とも異なっているように思われる。先にカーテンや簾のように見えるとも述べたが、画面の背後に何かが隠されているという点で、御簾(みす)という表現が相応しいように思われてならない。

油絵具やアクリル絵具に比して、日本画の画材である顔料や岩絵具は、その画材によって多少の程度の差こそあれ、概して動きや躍動感を表出するのには不向きと言える。そうした日本画の画材の特性をよく理解しているからだろうか、松田が作品表現のうえで追求するのは、動ではなく、静の表現である。実際、ベースとなっている円環自体が、動よりも静の世界を喚起させる。

また、松田の作品において何よりも見逃せないのは、光の表現だろう。同系色の画面でもどこかにホワイトやグレーが多用され、ハイライトのように白さが際立って見える部分がある。それは、紛れもなく画面の背後に存在する世界からこちらに差し込んでくる一筋の光明に違いない。松田麗香の作品の前に立つとき、私たちが忘我の境地で魅了されるのはその光のためなのだろう。

スケジュール

2021年4月17日(土)〜2021年6月24日(木)

開館情報

時間
11:0019:00
休館日
月曜日
月曜日が祝日の場合は開館し翌火曜日休館
年末年始休館
備考
5月3日は閉館
入場料一般 1000円、大学生・高校生 600円、中学生以下無料
会場東京オペラシティ アートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag/
住所〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2
アクセス京王新線初台駅東口より徒歩3分、小田急小田原線参宮橋駅より徒歩11分、都営大江戸線西新宿五丁目駅A2出口より徒歩12分
電話番号050-5541-8600 (ハローダイヤル)
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