義足という道具は、足を何らかの理由で切断した、あるいは先天的にない人の身体を支えるもので、日常生活用からスポーツ用、近年ではショーなどで見せるための義足まで作られています。本展は、社会のダイバーシティを考えるという大きなテーマのもと、ひとりひとりが生き甲斐をもち、それぞれ輝ける社会を考える手がかりとして、義足とそのユーザー、作り手の現在に着目します。「障がい」というのは、身体的状況そのものより、社会の中で生まれる不自由や心理的な壁です。互いを理解し、支えあう共同体として社会を整備していくことは、これから超高齢化社会を迎える私たち全員と無関係ではありません。義肢装具士の臼井二美男は、熟練した職人技と一対一のコミュニケーションを通して、ユーザーひとりひとりの身体にフィットする義足づくりに取り組んでいます。さらに義足を使いこなし、人同士の交流と活力を生む場として、義足で走る陸上クラブの活動に長く携わってきました。
一方で東京大学の山中俊治研究室では、マス・カスタマイゼーションという考え方のもと、義足用モデリングソフトウェアや 3D プリンターという新しい技術を用いて、ひとりひとりに適した美しい義足を、より多くの人に届けることを目指しています。
本展では、義足の歴史から、近未来の義足づくりまでを展望します。大量生産・大量消費が普通になった現代社会で、人間ひとりひとりに寄り添うことのできるデザインとはどのようなものか、義足を通して見えてくるのではないでしょうか。使い手に寄り添い、その背中を強く押してきた義足。そこに関わる人や歴史に目を向け、壁のない未来の社会を考えるきっかけとなればと思います。