この度、rin art association では鈴木のぞみによる個展「The Rings of Saturn / Mirror with a Memory」を開催いたします。本展は、鈴木が2019年から約1年間イギリスに滞在した経験のなかで出合った様々な事物について思索を重ね、かつての人々の営みへと思いを馳せることで制作されたシリーズを中心に、2フロアで構成されます。
「The Rings of Saturn」シリーズでは、写真の黎明期とともに発展したヴィクトリア朝以降のイギリスの土着的な遺物の来歴を調べ、望遠鏡や虫眼鏡などを通して、かつての人々によって眺められていたであろう光景が定着されています。
タイトルの「The Rings of Saturn」は、晩年を東イングランドで過ごしたドイツの作家W・G・ゼーバルトによって1995年に書かれた書物から引用されています。本シリーズでは、無数の小さな粒子が集まることでかたちづくられる土星の環のように、時代の目撃者である事物に焼き付けられた欠片のようなイメージとテキストによって、脱線と連想が我々の記憶を想起し、新たな物語が紡がれます。
「Mirror with a Memory」は、19世紀に発明されたダゲレオタイプが「記憶を持った鏡」と呼ばれていたという言説から着想し、役目を終えた鏡自体を支持体とし、鏡が人知れず映し続けていた室内風景や持ち主の肖像、あるいはその人物の不在が焼き付けられています。事物に潜像のように宿る記憶を、写真によって顕在化しようと試みられた作品群を是非ご高覧下さい。