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[画像: ジョナサン・ハマー, SEEN FROM ABOVE, 2020, ⽊のパネルにミクストメディア H63 × W63 × D5 cm, in artistʼs frame]

ジョナサン・ハマー 「『OPERATION OCTOPUS』『丸川コレクション展 巻物と触⼿』」

SOKYO ATSUMI
終了しました

アーティスト

ジョナサン・ハマー
この度 SOKYO ATSUMI では2021年10⽉20⽇(⽔)から11⽉27⽇(⼟)まで、ジョナサン・ハマー個展「OPERATION OCTOPUS」および丸川コレクション展「巻物と触⼿」を開催いたします。今夏、京都の現代美術 ⾋居及び⾋居アネックスにて開催された同個展・コレクション展に引き続き、東京においての初個展、初展⽰となります。本展では、ハマーの代表作である、多彩でエキゾチックな動物の⽪と⾦箔押しを特徴とするマケトリー(⽊象嵌)作品、四国産の⼿漉き和紙に描写したドローイング作品、陶作品と、ユダヤ⼈と⽇本⼈という異⽂化間に成り⽴つ友情や共感から始まったというハマー作品の丸川コレクションより貴重な過去作を展⽰し、作家のこれまでの活動が最新作とどのような繋がりを持っているのかを検証します。

世界的な移⺠問題や⾃⾝の家系がたどってきた歴史に触発されたハマーは今回、継続的に展開している《Kovno/Kobe》(コブノ/神⼾)プロジェクトの最新作を発表します。リトアニアのコブノ(現・カウナス)のユダヤ⼈が⽇本⼈外交官・杉原千畝(すぎはらちうね)の「命のビザ」発給によって⼤挙して国外へと逃れ、ロシアを経てやがて神⼾で逗留するという第⼆次世界⼤戦中に起こった出来事を⾒つめるプロジェクトです。

杉原千畝は、1924年に中国のハルビン⽇本領事館に外交官として就任し、1939年にリトアニアの在カウナス⽇本領事館領事代理になりました。ナチスによるユダヤ⼈迫害も激しさを増し、受け⼊れ先がなくなり、ポーランドからリトアニアに逃亡してきたユダヤ避難⺠が、閉鎖間際の⽇本領事館に通過ビザを求めて来ました。「正規の⼿続きができない者に、ビザを出してはいけない」と外務省に命令されたにもかかわらず、杉原はビザを発給しユダヤ⼈の命を救う道を選びました。⼀⼈でも多くの命を救うために、⼊国ビザを必要としない南⽶キュラソー⾏きの「命のビザ」を少しの時間も惜しんで書き続けた杉原は、領事館を退去した後もホテルで渡航許可証を書き続けました。出国前最後の⽇、駅まで押し掛けてきたユダヤ⼈たちにも発⾞間際まで渡航許可証を書き、最後の渡航許可証は⾞窓から⼿渡したのでした。1ヶ⽉間で発給したビザは2139通になります。

⽇本通過ビザを取得したユダヤ⼈避難⺠は、鉄道でシベリアを横断し、ウラジオストクより敦賀に⽇本に上陸しました。彼らが世界各国へ避難する途中経由した神⼾および横浜の⽂化は、ユダヤ⽂化とは⼤きく異なるものでした。

「急激かつ突発的に異⽂化に接するとき、他者というものはどう⾒えてくるのだろうか」‒‒‒この⾃⾝の問いに対しハマーは記号論(記号、シンボル、⽤途、解釈を中⼼とする思想体系)を援⽤して解き明かそうとします。アウトサイダーの誤解と曲解された⽇本像が織りなす⽇本の歴史を思うとき、この問いはいっそう強い関連性を帯びてきます。難⺠の受け⼊れ側は難⺠をどう⾒ているのか?そして、その逆はどうだろうと‒‒‒。初めて⽇本へやってきた⻄欧⼈が経験した⽂化的衝突を描き出す16世紀の南蛮屏⾵から着想を得たハマー作品は、神⼾に逗留した東欧諸国のユダヤ⼈の経験への共鳴を試みます。ハマー作品《Operation Octopus》は記号論的な表象というテーマに深く⼊り込んでゆき、タコをユダヤ⼈に替わるイメージとしてとらえ、ユダヤ⼈難⺠の巻き⽑の髪をタコの⾜になぞらえています。

京都・蛸薬師(たこやくし)堂に伝わる、よく知られた逸話があります。戒律を破った僧侶が、死にゆく御⺟堂が⾷べたいと望んだことから⽣きたままのタコをたずさえて京のまちを歩いたという説話、ハマーはこれを今回の展⽰の中⼼に据えています。‒‒‒住職や寺内の僧侶が、道ゆくこの僧侶を捕まえて箱の中⾝は何かと問いかけ、背徳の僧侶が箱の蓋を開けると⽬を疑う光景がそこにありました。タコは箱の中で経典に姿を変えていたのです‒‒‒。ユダヤ教理を修めた者は、数百⼈単位の虐殺がありながらも、杉原千畝の⼿によって救済され⽇本へと逃れました。ハマーがタコの⾜になぞらえている、巻き⽑をたたえる若いユダヤ⼈学者の⼤部分は、ユダヤ教の経典であるトーラの巻物の守護役を務めていました。今回、ハマーは蛸薬師道の伝承を持ち込んで、コブノから神⼾へたどったユダヤ⼈の記号論的な解釈に重ね合わせています。

⾏き場を失い離散した⼈びとに起こる⾃⼰性の変容と崩壊‒‒‒多彩でエキゾチックな動物の⽪を配し、制作には⾻の折れるマケトリー作品ですが、ハマーは半ば抽象的かつ⽐喩的なスタイルで、断⽚化されたアイデンティティのパズルというべきものを精緻に再構成しています。本作品で描写されるタコは、⽺⽪に綴られたトーラへと、まざまざとその姿を変えます。

本個展の表題作《Operation Octopus, 2020》は、サケ、リザードシャーク、カエル、ビーバーの尻尾、アザラシ、ヘビ、エイなどの⽪を配した⽊象嵌作品で、1930年代の⽇本を魅了した、アールデコの影響が⾊濃いヨーロッパ的なデザインを取り⼊れています。本作品が⽰唆するものは、動物が経典へと変貌を遂げるなかで⽣まれる奇跡的な瞬間であり、異⽂化間での解釈の相違を下敷きとした鏡像です。本⼤型作品では、帽⼦の中にあるタコは敬虔な巻き髪のユダヤ⼈に、カニの甲羅に⾒⽴てた巻物の上端にあるトーラ冠はカニへと、それぞれの形態の変容が⾒て取れます。

この⼤型作品に加えて、今回3点の⼩さなレザーパネル作品も展⽰し、⼤型作品と同様にユダヤ⼈になぞらえたタコが経典に変化を遂げる瞬間を⾒つめます。そのほか、同じく京都に伝わる伝承を取り上げたドローイング7点、タコが本を象った⽊製ブロックに姿を変える陶作品3点も紹介いたします。

スケジュール

2021年10月20日(水)〜2021年11月27日(土)

開館情報

時間
11:0018:00
金曜日・土曜日は19:00まで
休館日
月曜日、日曜日、祝日
入場料無料
会場SOKYO ATSUMI
http://gallery-sokyo.jp/
住所〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEXⅡ304
アクセスりんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩7分, 東京モノレール天王洲アイル駅南口より徒歩8分、京急本線新馬場駅北口より徒歩9分、JR品川駅港南口より都営バス「天王洲橋」下車徒歩3分
電話番号080-7591-5212
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