ギャラリー美術世界宋栄邦(ソン・ヨンバン)の日本での第二回目の個展が開催される。宋栄邦はソウル大学在学中に最優秀賞を受賞、国展でも特選となって韓国美術界の耳目を一気に集めた。一時、現代美術のアンフォルメルの潮流に身を任せて前衛グループ墨林会にも参加するが、実験の果てに到達したのは、実に東洋画の抽象概念であった。東洋では思考の伝達に使用する漢字自体が形象であり、究極に抽象化された絵画でもある。画の六法や現代の十六画法に於いてもその中心点は気韻生動であり、目に見えない本質を抽象化して表出することに重きが置かれた。そもそも東洋哲学においては、抽象と具象を区別すること自体が無意味なのだ。こうして宋栄邦は、迂回しながらもしっかりと大地に足を降ろし、十牛図の返本還源の如くに自体内に既に備わった美に気づいていくのである。(…)
同じく荘子の秋水篇の最後に知魚楽という一節がある。泳いでいる魚の心を人間が理解できるものか、という恵子に対して荘子が魚の楽しみを体感している様が表現されている名文だ。宋栄邦は知魚楽の境地を感性の鈍い我々に染渡るように伝えてくれる。もし私たちが魚の楽しみを体感できたとするならば、どれだけ楽しい人生を送ることができるだろうか。芸術は一人一人持つ天来の個性を顕現させる。殺伐とした現代、宋栄邦のような珠玉の作品に触れ、自らの深層を訪ねてみるのも一興である。
(ギャラリー美術世界総支配人、美術の窓2007年5月号掲載)より
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